ラナ・ゴーン副長官は普段中央研究所の食堂で食事を摂るが、その日の昼休みに一般食堂へ脚を伸ばした。ダリル・セイヤーズ・ドーマーが1人で食事をしているのを見つけるのはたやすかった。数人のドーマー仲間と配膳カウンター前で少しふざけていたが、山盛りの卵と野菜の炒め物を皿に取って、煮込んだ魚料理を少々付け足し、飲み物のカップをトレイに載せて食堂の隅のテーブルへ向かった。今日は相方がいないので、1人で食べるようだ。
彼女は野菜料理と魚の揚げ物を選び、珈琲と共にトレイに載せると、彼が席を取ったテーブルに向かった。
「ご一緒させて頂いても宜しいかしら?」
ダリルは端末でメールを開こうとしていたが、彼女の声を聞いて手を止めた。顔を上げて、平静を装い、どうぞ、と答えた。彼女が座り、食事を始めるのを視野の片隅に置きながら、メールをチェックした。中西部支局の新支局長からメールが入っていた。秘書のブリトニー嬢が婚約したので、婚姻許可申請を出す予定、とあった。あの可愛らしい秘書さんが結婚するのか、とちょっと残念に思った。局員達は彼女の顔を見るのが楽しみで中西部へ出張するのだ。きっとがっかりするだろう。新支局長は、遺伝子管理局を引退した元ドーマーだ。まだ独身のはずで、ドームは彼にふさわしい女性を数人候補として選んでいる。多分、彼は近々お見合いさせられるだろう。
「ねぇ」と副長官が声を掛けてきた。
「食事の時は仕事をしない方が良いわよ。」
ダリルは端末を仕舞った。
「今日はメールや報告が多いんです。チーフが朝部屋を出たっきり行方不明だし・・・」
勿論、彼はポールが何処で何をしているか知っている。ラナ・ゴーンが知っていることも知っている。さっさとボスを返せ、と暗にほのめかしているのだ。
ラナ・ゴーン副長官はちらりと時計を見た。予定時間をオーバーしている様だが、彼女は心配していなかった。今日はJJに好きなだけ遊ばせてやるつもりだ。誕生日だから。
「ドームの中に居るのだから、心配ありませんよ。」
「私の仕事が増えるじゃないですか。」
「では午後のジムを休めば良いわ。」
ダリルは食べ物を口に放り込み、嚼んで呑み込んでから、抗議した。
「私に意地悪をしていませんか?」
「そんなつもりはありません。」
彼女は暫く黙って食べてから、言った。
「今日は長官が月の会合に出席されているので、私も代行で忙しいのですよ。」
「その割には、わざわざここでお食事ですか?」
「貴方と一緒に居たかったから。」
ダリルは瞬間、食堂内を見回した。パパラッチは居なさそうだ・・・しかし、絶対に居ないと言う保証はない。
「私はスキャンダルになっても恐くありませんが、貴女は・・・」
「本当のことを言いましょう。私は3ヶ月前から独身なのです。」
ラナ・ゴーン副長官が苦笑いした。
「地球人に夢中でこの5年間コロニーに帰らない妻に、夫が愛想を尽かしたのです。子供達は全員独立しているし、もう夫婦でいる必要もないと話し合いで決めました。ですから、今の私はフリーです。」
ダリルは何と言うべきか考えた。彼女が付け加えた。
「もうただの小母さんですからね。」
「では、小母さんの隣に座る権利はまだ私にもあると言うことですね?」
「小母さんの隣で良ければね・・・多分、退屈ですよ。」
「黙って座っているのも好きです。」
彼女は野菜料理と魚の揚げ物を選び、珈琲と共にトレイに載せると、彼が席を取ったテーブルに向かった。
「ご一緒させて頂いても宜しいかしら?」
ダリルは端末でメールを開こうとしていたが、彼女の声を聞いて手を止めた。顔を上げて、平静を装い、どうぞ、と答えた。彼女が座り、食事を始めるのを視野の片隅に置きながら、メールをチェックした。中西部支局の新支局長からメールが入っていた。秘書のブリトニー嬢が婚約したので、婚姻許可申請を出す予定、とあった。あの可愛らしい秘書さんが結婚するのか、とちょっと残念に思った。局員達は彼女の顔を見るのが楽しみで中西部へ出張するのだ。きっとがっかりするだろう。新支局長は、遺伝子管理局を引退した元ドーマーだ。まだ独身のはずで、ドームは彼にふさわしい女性を数人候補として選んでいる。多分、彼は近々お見合いさせられるだろう。
「ねぇ」と副長官が声を掛けてきた。
「食事の時は仕事をしない方が良いわよ。」
ダリルは端末を仕舞った。
「今日はメールや報告が多いんです。チーフが朝部屋を出たっきり行方不明だし・・・」
勿論、彼はポールが何処で何をしているか知っている。ラナ・ゴーンが知っていることも知っている。さっさとボスを返せ、と暗にほのめかしているのだ。
ラナ・ゴーン副長官はちらりと時計を見た。予定時間をオーバーしている様だが、彼女は心配していなかった。今日はJJに好きなだけ遊ばせてやるつもりだ。誕生日だから。
「ドームの中に居るのだから、心配ありませんよ。」
「私の仕事が増えるじゃないですか。」
「では午後のジムを休めば良いわ。」
ダリルは食べ物を口に放り込み、嚼んで呑み込んでから、抗議した。
「私に意地悪をしていませんか?」
「そんなつもりはありません。」
彼女は暫く黙って食べてから、言った。
「今日は長官が月の会合に出席されているので、私も代行で忙しいのですよ。」
「その割には、わざわざここでお食事ですか?」
「貴方と一緒に居たかったから。」
ダリルは瞬間、食堂内を見回した。パパラッチは居なさそうだ・・・しかし、絶対に居ないと言う保証はない。
「私はスキャンダルになっても恐くありませんが、貴女は・・・」
「本当のことを言いましょう。私は3ヶ月前から独身なのです。」
ラナ・ゴーン副長官が苦笑いした。
「地球人に夢中でこの5年間コロニーに帰らない妻に、夫が愛想を尽かしたのです。子供達は全員独立しているし、もう夫婦でいる必要もないと話し合いで決めました。ですから、今の私はフリーです。」
ダリルは何と言うべきか考えた。彼女が付け加えた。
「もうただの小母さんですからね。」
「では、小母さんの隣に座る権利はまだ私にもあると言うことですね?」
「小母さんの隣で良ければね・・・多分、退屈ですよ。」
「黙って座っているのも好きです。」