2016年11月3日木曜日

対面 2

 車は森の奥深くへ入っていく様な道を走った。緑の陰が車内にも入ってくる。途中でまたゲートがあり、車輌チェックとボディチェックがあった。ここで武器を預ける様にと言われ、ポールは護身用の麻痺光線銃を預けた。ダリルは非武装だが、ドーマーが武術の達人だと警備の人間達は知っているのだろうか?

「馬鹿に用心深いな。金持ちって言うのは、皆こんなものなのか?」

とポールが愚痴った。ダリルは金持ちの知り合いなどいないが、この厳重な警備の理由はわかった。

「大統領が来ているんだよ、ポール。君がフラネリー家の人々と面会したいと言ったから、会員のアーシュラ・R・L・フラネリーだけでなく、息子夫婦も来ているってことだ。」

恐らく、ポールの取り替え子である娘もいるはずだ・・・

 ゲートを抜けると、すぐ森も終わって、芝生の野原と木造の山小屋風別荘に着いた。使用人だか警備員だかが数名出迎えて、車を預かり、2人を建物の中へ案内した。
上等の家具やカーペットで装飾された豪華な内装は、ドーマーの心を動かすには役に立たなかったが、アメリア・ドッティに抱かれて現れた乳児は、ダリルを喜ばせた。名前は父親の名前と同じ、アルバート二世だ。ダリルが抱いても良いかと尋ねると、アメリアも喜んで彼に赤ん坊を渡した。
 赤ん坊は懐かしい匂いがした。甘いミルクの香りだ。18年前のことが思い出された。ダリルは暫くアルバート二世をあやしていたが、ふと視線を感じて顔を上げるとポールがじっと見ているのに気が付いた。

「君も抱いてみるか?」

尻込みするかと思えば、意外に素直な態度でポールは赤ん坊を受け取り、ダリルを驚かせた。抱き方も慣れている。考えれば、クローンの乳児を保護する時に何度か抱いているのだろう。

 君にもライサンダーを抱かせてあげたかったよ

 ポールは特にあやすでもなく、子供を抱いてその顔を眺め、「有り難う」とアメリアに赤ん坊を返した。その間、赤ん坊は大人しくしていた。
 アメリアは夫のアルバート・ドッティが不在であることを詫びた。

「2時間前まではここにいましたの。でもフィリピン沖で発生した台風に弊社の船団が巻き込まれ、連絡が取れない船があると緊急の知らせが入り、本社へ向かいました。遺伝子管理局の面談は後日にお願いしたいとの伝言です。」
「それはご心配でしょう。面談はいつでもご都合の良い日で結構です。」

 そこへ執事が来て、テラスで元上院議員夫妻が客を待っていると告げた。ダリルの緊張が一気に高まった。ポールにこの胸のドキドキを聞かれはすまいかと不安になった。
ポールは気が付かずに、アメリアの後ろに続いてテラスへ歩き始めた。