2016年11月12日土曜日

対面 23

 ダリルはポールの机に行き、画面を覗き込んだ。そして、「あっ」と声を上げた。
ポールが振り返った。

「知っているヤツか?」
「見たことがある。」
「何時? 何処で?」
「君を救出した次の日だ。セント・アイブスで重力サスペンダーの店の場所を通行人に尋ねていたら、彼は偶然通りかかり、その後で私達を尾行して来た。遺伝子管理局が何を調べているのか、興味を抱いたのだろう。」
「本当に尾行されたのか?」
「うん。クロエルも気が付いた。彼もその男の顔を見たはずだ。」
「すると、向こうも君とクロエルを見た訳だ。」
「リュックも居たんだ。」
「彼が出張所の人間だと言うことは知っていたはずだ。それは問題ない。君とクロエルはFOKに面が割れてしまった。」
「覆面捜査ではないから、それも問題ないと思うが・・・」

 するとポールは少し躊躇ってから、決心してダリルに正面を向けた。

「昨日、チーフ・ドーソンの部下が、この男の自宅があるナイアガラフォールズ郊外のエネルギースタンドで通行車輌を張っていた。すると、こいつ・・・ニコライ・グリソムが車で来て充電した。その時、助手席に乗っていた若い男が、緑色に光る黒髪だったそうだ。」
「えっ!?」

 ダリルもポールを真っ直ぐに見た。

「まさか、ライサンダーじゃないよな?」
「それはわからん。同年齢で同じ色の髪の少年が複数いても可笑しくない。葉緑体毛髪はそんなに珍しくないからな。しかし・・・グリソムが君の顔を知っていると言うのであれば、話は少し変わってくる。
 ライサンダーは、パーツは俺に似ているらしいが、全体の雰囲気は君そっくりだ。もしグリソムが彼を見つけて、君との関係を疑って誘惑でもしたら・・・」
「それは・・・」

 ダリルは息子が犯罪者と関わりを持ったと思いたくなかった。それでなくても、ライサンダーはラムゼイ博士と深い関係を持っているのだ。

「チーフ・ドーソンの部下は、少年の顔までははっきり見ていない。君と似ていたかどうか、それは不明だ。少年がグリソムと友人なのか、ただ同乗していただけの知人なのか、あるいはFOKのメンバーなのか・・・チーフ・ドーソンの心配はそれだ。
 彼はライサンダーと君の関係は知っているが、俺との関係はまだ知らない。ケンウッド長官もハイネ局長も俺達が公表する迄黙ってくれているからな。彼がライサンダーの髪が緑だと知っているのは、俺が当初の手配書に書いたからだ。
 チーフ・ドーソンは君が傷つく様な事態になりはしないかと心配してくれているんだ。」
「うん・・・有り難いことだ。」

 ダリルにとっても、チーフ・ドーソンは師匠だ。

「ポール、私は君の立場を考えて、出来るだけライサンダーのもう片方の親のことは黙っていた。今のところ、私の口から明かしたのはクロエルだけなのだが、君を知っている人がライサンダーを見たら、君の子供だとわかるらしい。」
「何を今更水くさいことを言うんだ? 俺が黙っていたのは、ライサンダーの身の安全を考慮したからだ。『氷の刃』はドームの外では嫌われ者だし、敵が多いからな。だから、ライサンダー本人にも言い聞かせておいた。出来るだけ能力を隠して目立つな、と。」
「では・・・」
「ドームの中では公表しよう。 ライサンダー・セイヤーズは、ポール・レイン・ドーマーの息子でもあるのだ、と。」
 
 ダリルは思わずポールに抱きついてしまった。ポールも愛おしそうに彼を抱きしめたが、ふと何かを思い出した。

「ところで、局長の用事は何だったんだ?」

 ダリルは彼からそっと身を離した。

「実は・・・私がどこのドームに帰属するかと言う問題に答えが出た。正式な回答だ。」

 ポールが一気に緊張した。

「どうなった?」
「それが・・・」
「それが?」
「西ユーラシアは、私の所有権を放棄した。」

 ポールはピンと来なかったらしい。ダリルの目を見つめた。ダリルはゆっくりと言った。

「アメリカに居て良いってさ!」

 次の瞬間、彼はもう1度、ポールに抱きしめられた。窒息するくらい力強く抱きしめられて、耳元でポールの囁きを聞いた。

「もう2度と俺を置いて何処かへ行ったりするなよ。」