2016年11月11日金曜日

対面 21

 ハイネ局長は書類をどこかに送信してから、ダリルを振り返った。

「待たせてすまなかった。しかし、朗報だから、辛抱してくれるな?」
「朗報ですって?」
「そうだ。」

 ハイネがにこりとした。

「西ユーラシア・ドームから君の帰属問題に関する返事が来た。」

 ダリルの心臓がドキンっと鳴った。そうだ、この問題が残っていた。彼は西ユーラシアに籍を置いたまま脱走していたのだ。

「アメリカに残りたいのであれば帰還を無理強いしないから、アメリカに残れと言うことだ。」
「!」
「条件は、これからアメリカ・ドームで採取する君の遺伝子を年に1度、西ユーラシアに譲って欲しいと言う、それだけだ。勿論子種は冷凍で送る。」
「・・・わかりました・・・」
「不満か?」
「いいえ!」

 ダリルは大きく首を振って見せた。

「ただ、帰属問題をすっかり失念していたので、驚いています。」
「君は相変わらず脳天気だなぁ。」

 その時、プリンターがピーッと鳴って書類を数枚吐きだした。局長はそれらを手に取って目を通してから、ダリルに差し出した。

「西ユーラシアへの転出届け、アメリカへの転入届け、それぞれの遺伝子管理局への離任、転任願いと、遺伝子管理に関する各長官への委任状、全てに君自身の手で署名して提出すること。今ここで書いても良いぞ。」

 19年前、リン長官によって転属させられた時も同じ書類に署名させられた。あの時は強制だった。今は大喜びで書ける。ダリルは場所を借りて書類に目を通し、所定の場所に署名した。それを受け取ったハイネ局長は、もう1度署名を確認して、書類を机に置いた。そして手を差し出した。

「改めて言おう、お帰り、ダリル・セイヤーズ・ドーマー。」
「有り難うございます。またお世話になります。」