ジェリー・パーカーはドーマー達と同様に小部屋で執政官に血液採取をされ、催淫剤を打たれた。ドーマー達と違ったのは、これらの作業の間、保安要員が一緒に居たことだ。しかし、検体採取の段階になると彼等は彼を1人残して部屋から出て行った。
ジェリーは暫くじっと座っていた。何をどうするのかはわかっていた。クローンを注文に来た客達に同じことをさせていたからだ。ラムゼイ博士は、ジェリーにも数回経験させたが、それは高額の支払いが出来る上客の時だけだった。ジェリーの子供は高く売れたのだ。ドームでも同じことをさせられるのか? 一生?
ドーマー達は、実験で生まれてくる子供達は、きちんとした家庭に養子に出されるのだと言った。売り飛ばされるのではない。審査に合格した家庭に、合法的に養子として迎えられる。ジェリー・パーカーは合法的に生まれたのではない。もうドームの外へ出してもらえない。
外に出られないのは、あの脱走ドーマーも同じだ。破天荒なことを平気でやってのけ、しかも進化型1級遺伝子なる恐ろしいものを持っている。そして美しい。ジェリーは18年前、初めてあのドーマーを見た時から惹かれていた。赤ん坊の抱き方やミルクの作り方、与え方、襁褓の替え方、いろんなことを教えてやったら、熱心に学習してすぐ覚えた。教わったことが上手くいくと、嬉しそうに笑った。必要なことを覚えて、赤ん坊を受け取ったら、さっさと姿を消してしまった。2度目に会った時は、ジェリーもドーマーもそれなりに歳を取って分別がついていた。子供は死んだと言ったが、ジェリーには嘘だとわかった。ドーマーは子供を守ろうとしたのだ。ラムゼイ博士が誰かにジェリーの素性を聞かれたら、嘘八百並べるのと同じで・・・
「氷の刃」は完璧な美しさだが、ジェリーはセイヤーズの方が可愛いと思う。喜怒哀楽がはっきりしていて、分かりやすい。ドームに居れば、あいつのそばに居られるんだな、とジェリーは気が付いた。会えなくても、近くに居られるのだ。
検体採取に成功したジェリーは、容器を冷蔵ボックスに入れ、部屋から出た。保安要員も執政官もいなかった。その後の指示を受けていないので、仕方なく最初に連れて行かれた部屋に戻った。
既に役目を終えたドーマー達が着替えをしていた。ジェリーは検査着で来ていたので、着替える必要はないと思えたのだが、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーがコンテナに入った衣服を差し出した。
「戻って来たら、これが置いてあった。君の名前が書かれた札が置いてある。これに着替え給え。」
ジェリーは驚いた。ドームに連れてこられて以来、初めてまともな衣服をもらった。
着替えていると、ドアが開いて、ダリル・セイヤーズ・ドーマーがよろめきながら入って来た。すぐ後ろに男性執政官が付いていた。気配りのクラウスがすぐに駆け寄ってダリルを支えた。
「どうしたんです、兄さん?」
すると執政官が「申し訳ない」と言った。
「ちょっと当方で手違いがあった。セイヤーズの催淫剤に麻酔剤を混ぜたアホゥが居て、彼は少し気分が悪くなったのだ。半時間もすれば麻酔は抜けるから、安静にさせてやってくれ。」
彼はポール・レイン・ドーマーとは目を合わさないように気をつけて、そそくさと部屋から出て行った。
クラウスはダリルを椅子に座らせた。誰かが水を汲んで手渡すと、ダリルは自分でコップの水を一気に飲み干した。
「犯人は誰だ?」
とポールが自分の席から動かずに尋ねた。ダリルが彼をちらりと見た。
「知ってどうする?」
「決まっているだろう? ドーマーが侮辱されたら、ドーマーは報復するんだ。」
「彼等は上司から懲戒処分を受ける。それで良いじゃないか。」
ダリルの言葉に、ジェリーが思わず口をはさんだ。
「お優しいんだな。あいつ等、これが初めてじゃないんだろ?」
「ああ。」
と部下の1人が頷いた。
「僕も前のお勤めの時に不愉快な思いをさせられた経験がある。あいつ等にとって、ドーマーはペット同然だからな。」
「そんな時は、ちゃんと俺に言えよ。」
ポールは部下に注意して、立ち上がった。彼はダリルに近づくと、恋人の首に手を当てた。ダリルが身を退く隙を与えなかった。 ジェリーは「氷の刃」の水色の目が、普段より白っぽくなるのを目撃した。
「なんだ? ほとんどレイプ寸前じゃないか!」
ポール・レイン・ドーマーが本気で怒っている。ジェリーには、彼がどうやって情報を得たのか、わからない。ただ他のドーマー達がチーフの怒りを感じて少し後ろへ退いたのに気が付いた。1人が、「チーフ」と呼んで、ポールに監視カメラの存在を思い出させた。着任年数が少ない執政官の多くは、ポールの能力を知らない。ドーマー達は、それぞれ己の能力を知られたくないのだ。
ポールは手を引っ込めた。ついでに怒りも抑制した。見事に冷静さを取り戻し、クラウスにダリルの着替えを手伝ってやれと言った。
「着替えが済んだら、一般食堂で会合だ。」
ジェリーは暫くじっと座っていた。何をどうするのかはわかっていた。クローンを注文に来た客達に同じことをさせていたからだ。ラムゼイ博士は、ジェリーにも数回経験させたが、それは高額の支払いが出来る上客の時だけだった。ジェリーの子供は高く売れたのだ。ドームでも同じことをさせられるのか? 一生?
ドーマー達は、実験で生まれてくる子供達は、きちんとした家庭に養子に出されるのだと言った。売り飛ばされるのではない。審査に合格した家庭に、合法的に養子として迎えられる。ジェリー・パーカーは合法的に生まれたのではない。もうドームの外へ出してもらえない。
外に出られないのは、あの脱走ドーマーも同じだ。破天荒なことを平気でやってのけ、しかも進化型1級遺伝子なる恐ろしいものを持っている。そして美しい。ジェリーは18年前、初めてあのドーマーを見た時から惹かれていた。赤ん坊の抱き方やミルクの作り方、与え方、襁褓の替え方、いろんなことを教えてやったら、熱心に学習してすぐ覚えた。教わったことが上手くいくと、嬉しそうに笑った。必要なことを覚えて、赤ん坊を受け取ったら、さっさと姿を消してしまった。2度目に会った時は、ジェリーもドーマーもそれなりに歳を取って分別がついていた。子供は死んだと言ったが、ジェリーには嘘だとわかった。ドーマーは子供を守ろうとしたのだ。ラムゼイ博士が誰かにジェリーの素性を聞かれたら、嘘八百並べるのと同じで・・・
「氷の刃」は完璧な美しさだが、ジェリーはセイヤーズの方が可愛いと思う。喜怒哀楽がはっきりしていて、分かりやすい。ドームに居れば、あいつのそばに居られるんだな、とジェリーは気が付いた。会えなくても、近くに居られるのだ。
検体採取に成功したジェリーは、容器を冷蔵ボックスに入れ、部屋から出た。保安要員も執政官もいなかった。その後の指示を受けていないので、仕方なく最初に連れて行かれた部屋に戻った。
既に役目を終えたドーマー達が着替えをしていた。ジェリーは検査着で来ていたので、着替える必要はないと思えたのだが、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーがコンテナに入った衣服を差し出した。
「戻って来たら、これが置いてあった。君の名前が書かれた札が置いてある。これに着替え給え。」
ジェリーは驚いた。ドームに連れてこられて以来、初めてまともな衣服をもらった。
着替えていると、ドアが開いて、ダリル・セイヤーズ・ドーマーがよろめきながら入って来た。すぐ後ろに男性執政官が付いていた。気配りのクラウスがすぐに駆け寄ってダリルを支えた。
「どうしたんです、兄さん?」
すると執政官が「申し訳ない」と言った。
「ちょっと当方で手違いがあった。セイヤーズの催淫剤に麻酔剤を混ぜたアホゥが居て、彼は少し気分が悪くなったのだ。半時間もすれば麻酔は抜けるから、安静にさせてやってくれ。」
彼はポール・レイン・ドーマーとは目を合わさないように気をつけて、そそくさと部屋から出て行った。
クラウスはダリルを椅子に座らせた。誰かが水を汲んで手渡すと、ダリルは自分でコップの水を一気に飲み干した。
「犯人は誰だ?」
とポールが自分の席から動かずに尋ねた。ダリルが彼をちらりと見た。
「知ってどうする?」
「決まっているだろう? ドーマーが侮辱されたら、ドーマーは報復するんだ。」
「彼等は上司から懲戒処分を受ける。それで良いじゃないか。」
ダリルの言葉に、ジェリーが思わず口をはさんだ。
「お優しいんだな。あいつ等、これが初めてじゃないんだろ?」
「ああ。」
と部下の1人が頷いた。
「僕も前のお勤めの時に不愉快な思いをさせられた経験がある。あいつ等にとって、ドーマーはペット同然だからな。」
「そんな時は、ちゃんと俺に言えよ。」
ポールは部下に注意して、立ち上がった。彼はダリルに近づくと、恋人の首に手を当てた。ダリルが身を退く隙を与えなかった。 ジェリーは「氷の刃」の水色の目が、普段より白っぽくなるのを目撃した。
「なんだ? ほとんどレイプ寸前じゃないか!」
ポール・レイン・ドーマーが本気で怒っている。ジェリーには、彼がどうやって情報を得たのか、わからない。ただ他のドーマー達がチーフの怒りを感じて少し後ろへ退いたのに気が付いた。1人が、「チーフ」と呼んで、ポールに監視カメラの存在を思い出させた。着任年数が少ない執政官の多くは、ポールの能力を知らない。ドーマー達は、それぞれ己の能力を知られたくないのだ。
ポールは手を引っ込めた。ついでに怒りも抑制した。見事に冷静さを取り戻し、クラウスにダリルの着替えを手伝ってやれと言った。
「着替えが済んだら、一般食堂で会合だ。」