2016年11月10日木曜日

対面 19

 翌日の北米南部班の朝食会は静かだった。 チーフ・レインと第1チームは抗原注射の効力切れで二日酔いみたいに元気がない。欠席の局員もいる。注射が必要ない副官クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーがチーフ代行で本日の予定チェックを行った。秘書ダリル・セイヤーズ・ドーマーは通常通りの職務をこなして予定表の読み上げだ。
 そして、いつもの様にパパラッチ・サイトをチェックする趣味の局員が、早速昨日撮影された画像がアップされているのを確認した。

「『遂にベールを脱いだラムゼイの腹心! 服も脱いだか?』だとさ・・・」
「思わせぶりのタイトルだけど、中身はないぜ。」

 実際、公開された画像は食堂やジムで北米南部班第1チームと共に過ごすジェリー・パーカーの姿ばかりだった。撮影者はジェリーがドーマー達と共に「お勤め」を果たしたことは知っているが、研究所内は警備が厳重で撮影していないのだ。
 ジェリーを知らない局員達は、最大組織を誇っていたラムゼイ博士の秘書を初めてじっくり見たことになる。

「こいつ、何人だ? 人種がよくわからん。」
「いろんな人種が混ざっているんだろ。アフリカ北部とか、中央アジア辺りの血が入っているんだと思う。」
「だが、イケメンだよな。」
「もっとふてぶてしい顔をしているのかと思ったが、案外普通のヤツみたいだ。」

 パパラッチは画像の「主役」を撮影するふりをして、実際はポール・レイン・ドーマーを撮っていることが多いのだが、今回は何故かダリルばかり背景に入れていた。
パパラッチ・サイト好きの局員はその事実に気が付くと、そっとチーフ・レインの表情を伺った。ポール・レイン・ドーマーは今朝は覗き見趣味に付き合う気がないらしく、黙ってサラダをもしゃもしゃ食べていた。時折隣に座った第1チームの新入りと言葉を交わすだけだ。パパラッチ・サイト好きの局員は、ポール自身が気が付くまで黙っていようと決意した。昨日朝の騒動は口外されていないが、ポールは恋人に誰かが横恋慕するのは気に入らないに違いない。
 ダリル本人は、ジェリーの画像を見て、なかなか佳い男っぷりだ、と喜んでいた。ジェリー・パーカーがラムゼイ博士の死を乗り越えて生きることに前向きになってくれたことを素直に嬉しく思った。
 伝説の映画監督と同姓同名で渾名も「監督」のジョージ・ルーカス・ドーマーが配膳カウンターに行ったので、パパラッチファンの局員は素早く追いかけた。そしてカウンター前で彼を捕まえると、件の画像を見せて意見を求めた。すると意外な返事が彼を驚かせた。

「これはセイヤーズを撮っているんじゃないよ、アングルがどれも良くないだろ? 偶々彼がパーカーの近くに居たので映り込んだに過ぎない。
 隠し撮りの真の目的はこの男さ。」

 ジョージが指さしたのは、画面の端に映っていた保安課員だ。

「監視役が盗み撮りされてたって言うのか?」
「彼の方がセイヤーズより綺麗に映っているだろ? 保安課の人間は個別任務を与えられない限り、監視センターか訓練所から出てこないから、滅多に撮影出来ないんだ。
それにあからさまに撮すと、本人に気づかれる恐れがあるし、ゴメス少佐にばれたら撮影者はサイトにアクセスする権利を剥奪される。このサイトそのものが削除されたらつまらないからね。」

 パパラッチファンは、画像の中のアキ・サルバトーレ・ドーマーを見つめた。

「確かに・・・珍しいよな、保安課が映っているなんて。」
「アキは生粋のアメリカ先住民だからな、コロニー人にとっても、人種的に珍しいんだろう、きっと。」

その時、北米北部班のチーフが足早にポール・レイン・ドーマーに近づいて行くのが見えた。どこかただならぬ雰囲気に、ドーマー達は思わず彼を見守った。