結局、ジェリー・パーカーは夕食までドーマー達に付き合わされた。もしかすると、これも遺伝子管理局の任務の一つかも知れないと思いつつも、ジェリーは楽しんでいる己を発見してちょっと戸惑った。他人と一緒に過ごす時間を愉しいと思ったのは、何年ぶりだろう。そして、何故愉しいのかを考えた。ドーマー達は純粋なのだ。ドームの中で大切に育てられてきたので、自分達が置かれている立場を疑いもせずに受け入れている。嫌だと思っても、逃げることはしない。(1人例外がいたが・・・)純粋なので、ジェリーも同じ様に扱ってくれるのだ。ジェリーが世間を斜めに見るなんてことは想像もしない。
「早くここの生活に慣れろよな! 馬になっちゃえ。」
「クローン製造のプロだろ? コロニー人の知らない技術とか持ってるんじゃないのか? あいつ等をびっくりさせてやれよ。地球人だってやれるんだぞって。」
夕食後、ジェリーをクローン観察棟まで送ってくれたのは、ダリル・セイヤーズ・ドーマーだった。監視役のアキ・サルバトーレ・ドーマーも居るのだが、ダリルはジェリーと少し話がしたかったのだ。
「ラムゼイの爺様を殺したヤツの目星はついているんだ。ただ、証拠がなくてね。トーラス野生動物保護団体の理事長モスコヴィッツと理事のビューフォードが嚼んでいるはずなんだ。ビューフォードが爺様の資料を隠していたのをレインが見つけて押収した。そのうち、君に確認作業の依頼が行くだろう。」
「博士の仇が判明したら、俺に教えてくれ。敵討ちが出来ないことはわかっている。俺はもうここから出られないからな。だが、そいつ等が裁判でどうなるのかは、テレビで見られる。必要なら、証言もするぞ。」
観察棟前で「おやすみ」と挨拶して、ダリルはジェリーと別れた。ふと散歩したくなって、ドーム壁周辺の庭園へ脚を向けた。ドームに復帰してから夜間に一人歩きするのは初めてだ。知った道だし、危険だとは思わない。キエフがいなくなってから、彼が1人歩きしてもポールは五月蠅く言わなくなった。コロニー人は敵ではない。嫌がらせする者がいることは事実だが、連中は決してドーマーを傷つけない。地球人に怪我をさせたら確実に懲戒免職だ。
庭園の外灯が灯っている道を歩いて行くと、植え込みの間にベンチが所々置かれているスポットに出た。若いドーマーやコロニー人が息抜きに来る場所だ。俗に「デートスポット」と呼ばれている。ダリルはここでデートをした記憶がない。ポールが好まなかったからだ。ポールのデートは屋内派だ。
木陰のベンチに誰かが座っていた。女性だと気が付いて、ダリルは立ち止まった。あのシルエットは知っている。彼女は端末で何か画像を見ていた。家族の写真だろうか?
彼女が気配に気づいて、こちらに顔を向けた。ダリルは「こんばんは」と挨拶した。あら、と声が上がった。
「こんばんは。珍しいわね、貴方が1人でいるなんて。」
「私はここの出身です。1人で歩けますよ。」
ダリルは笑って、彼女の隣を指した。
「そこ、宜しいですか?」
「どうぞ。」
ダリルはラナ・ゴーン副長官の隣に座った。副長官は仕事を終えて入浴したのか石鹸の香りがした。
「今日は朝から大変だったそうね。」
「ああ、あれですか。」
ダリルは既に遠い過去みたいに感じていた朝の騒動を思い出した。
「執政官の質が落ちたようですね。若い人は・・・私より年上のはずですが、ちょっと子供染みた行動が目に付きます。」
「一部の人の言動が目立ちすぎることは確かです。欲求不満の塊みたいで嫌ね。」
ラナ・ゴーンは端末をポケットにしまった。
「貴方が言っていた・・・」
「はい?」
「JJの能力、本当みたい。」
「塩基配列が見えると言う、あれですか?」
「ええ。血液サンプルだけ見せたら、性別、ドーマー、コロニー人、クローン、全部判別したわよ、彼女・・・」
「マジですか!」
「貴方でも驚くの?」
「だって、そんな比較実験なんてやりませんから。私が見たのは、彼女が見えているものを絵に描いてくれたものです。」
「絵? 塩基配列を描いたの?」
「そうです。模様に見えましたが、縞模様にパターンがあったのでDNAだとわかりました。」
「面白いわね。明日は彼女にそれをお願いしてみましょう。」
ダリルはそっと副長官を見た。
「彼女が塩基配列で人を判別すると言うことは、やはり女性誕生の研究に役立ちますか?」
「個人の判別と言うより、地球人、コロニー人、クローンの判別が出来ると言うところがミソですね。女性はコロニー人とコロニー人のクローンだけなのに、どうしてクローンがわかるのか・・・そこに女子が生まれない原因が隠されているのかも知れないわ。」
「早くここの生活に慣れろよな! 馬になっちゃえ。」
「クローン製造のプロだろ? コロニー人の知らない技術とか持ってるんじゃないのか? あいつ等をびっくりさせてやれよ。地球人だってやれるんだぞって。」
夕食後、ジェリーをクローン観察棟まで送ってくれたのは、ダリル・セイヤーズ・ドーマーだった。監視役のアキ・サルバトーレ・ドーマーも居るのだが、ダリルはジェリーと少し話がしたかったのだ。
「ラムゼイの爺様を殺したヤツの目星はついているんだ。ただ、証拠がなくてね。トーラス野生動物保護団体の理事長モスコヴィッツと理事のビューフォードが嚼んでいるはずなんだ。ビューフォードが爺様の資料を隠していたのをレインが見つけて押収した。そのうち、君に確認作業の依頼が行くだろう。」
「博士の仇が判明したら、俺に教えてくれ。敵討ちが出来ないことはわかっている。俺はもうここから出られないからな。だが、そいつ等が裁判でどうなるのかは、テレビで見られる。必要なら、証言もするぞ。」
観察棟前で「おやすみ」と挨拶して、ダリルはジェリーと別れた。ふと散歩したくなって、ドーム壁周辺の庭園へ脚を向けた。ドームに復帰してから夜間に一人歩きするのは初めてだ。知った道だし、危険だとは思わない。キエフがいなくなってから、彼が1人歩きしてもポールは五月蠅く言わなくなった。コロニー人は敵ではない。嫌がらせする者がいることは事実だが、連中は決してドーマーを傷つけない。地球人に怪我をさせたら確実に懲戒免職だ。
庭園の外灯が灯っている道を歩いて行くと、植え込みの間にベンチが所々置かれているスポットに出た。若いドーマーやコロニー人が息抜きに来る場所だ。俗に「デートスポット」と呼ばれている。ダリルはここでデートをした記憶がない。ポールが好まなかったからだ。ポールのデートは屋内派だ。
木陰のベンチに誰かが座っていた。女性だと気が付いて、ダリルは立ち止まった。あのシルエットは知っている。彼女は端末で何か画像を見ていた。家族の写真だろうか?
彼女が気配に気づいて、こちらに顔を向けた。ダリルは「こんばんは」と挨拶した。あら、と声が上がった。
「こんばんは。珍しいわね、貴方が1人でいるなんて。」
「私はここの出身です。1人で歩けますよ。」
ダリルは笑って、彼女の隣を指した。
「そこ、宜しいですか?」
「どうぞ。」
ダリルはラナ・ゴーン副長官の隣に座った。副長官は仕事を終えて入浴したのか石鹸の香りがした。
「今日は朝から大変だったそうね。」
「ああ、あれですか。」
ダリルは既に遠い過去みたいに感じていた朝の騒動を思い出した。
「執政官の質が落ちたようですね。若い人は・・・私より年上のはずですが、ちょっと子供染みた行動が目に付きます。」
「一部の人の言動が目立ちすぎることは確かです。欲求不満の塊みたいで嫌ね。」
ラナ・ゴーンは端末をポケットにしまった。
「貴方が言っていた・・・」
「はい?」
「JJの能力、本当みたい。」
「塩基配列が見えると言う、あれですか?」
「ええ。血液サンプルだけ見せたら、性別、ドーマー、コロニー人、クローン、全部判別したわよ、彼女・・・」
「マジですか!」
「貴方でも驚くの?」
「だって、そんな比較実験なんてやりませんから。私が見たのは、彼女が見えているものを絵に描いてくれたものです。」
「絵? 塩基配列を描いたの?」
「そうです。模様に見えましたが、縞模様にパターンがあったのでDNAだとわかりました。」
「面白いわね。明日は彼女にそれをお願いしてみましょう。」
ダリルはそっと副長官を見た。
「彼女が塩基配列で人を判別すると言うことは、やはり女性誕生の研究に役立ちますか?」
「個人の判別と言うより、地球人、コロニー人、クローンの判別が出来ると言うところがミソですね。女性はコロニー人とコロニー人のクローンだけなのに、どうしてクローンがわかるのか・・・そこに女子が生まれない原因が隠されているのかも知れないわ。」