2019年5月31日金曜日

大嵐 2 2 - 9

 ポール・レイン・ドーマーがライサンダーを週の2日をドームで、残りの日々を従来通り外で生活させたいと言った時、ローガン・ハイネ・ドーマーは父親業を始めたばかりの部下に言った。

「君の家族の生活に、私やドームが口出しすることはない。ライサンダーは民間人でドーマーではないのだから、ドームに関係する事柄以外で私の許可をいちいち取る必要はないぞ。」

 他の人々は皆ライサンダーに興味津々なのに、ハイネ局長は余り関心がない様だ。若者が失意から浮上したのか、どんな生活をしているのか、ドームにどれだけ理解を示しているのか、天で触れようとしない。レインはそれが却って有り難かった。息子は見世物ではないし、ドーマーの様な研究対象でもない。しかし執政官達は男同士の間に生まれた息子を解剖したげな目で見る。ドーマー達はレインとセイヤーズに似たライサンダーを身内として受け入れるべきか、他所者と見なすべきか値踏みしている最中だ。
 レインはポーレット・ゴダートの遺体引き取りと葬儀の為にライサンダーをドームの外に戻すことを告げた。

「俺も付き添います。外の世界ではセイヤーズが父親として認識されていますが、彼は暴力行為のせいで外に出ることを許されません。俺は親として名乗ることを控え、遺伝子管理局職員として、胎児保護宣言をゴダートの親族に告げます。相続の問題がありますから。」

 母体を失った胎児が遺伝子管理局に保護された場合、遺伝子管理局は胎児の生存と親の遺産相続権保証を公に宣言する。遺伝子管理局と言う役所の役目だ。
 レインの言葉にハイネは頷いた。そして、やっと部下の息子に触れた。

「FOKが根絶された保証はない。ライサンダーの警備は怠らぬ様気をつけなさい。」
「わかりました。」

 その時、レインの目に、ハイネの執務机の隅に置かれた写真立てが映った。立体画像写真で、一人の若い男性と2人の若い女性が並んで立っている。女性達はそっくりな顔で、しかし着衣は違っていた。3人共に笑顔でこちらを見ていた。
 レインの視線が写真に向いたことに気が付いたハイネがさりげない風に説明した。

「パーシバル博士とセドウィック博士のお子さん達だ。先日の春分祭の折にこのドームに来てくれたので、夫妻が写真を残してくれたのだ。宇宙で撮影したものを地球に持ち込むのは規則違反だからな。」
「利発そうな綺麗なお子さん達ですね。」

 レインはそうコメントして、心の中で呟いた。

 貴方のお孫さんじゃないんですか?