ケンウッド長官は数秒間黙り込んだ。重要性は理解しているのだ。彼はレインにどんな指示を与えるべきか考えているのだろう。レインは待った。思慮深く部下思いで、心から地球と言う星を、地球人を、ドーマー達を愛してくれているコロニー人の指示を待った。
やがてケンウッドの声が質問して来た。
「彼は元気なのだね?」
何を生業にしているのか、とか、誰と一緒にいるのか、とかではなく、最初にそれを訊いて来た。レインは目を閉じた。目の奥が熱くなったからだ。感情の波を出すまいと彼は用心した。
「元気そうです。」
「1人か?」
「同居人が1人いる様子です。」
どんな同居人か、長官は尋ねなかった。代わりにこう質問した。
「彼は、固定された住まいを持っているのかね?」
「はい。」
「今君がいる場所から近いのか?」
「車で2時間ばかりの僻地ですが、遠くはありません。」
「君は彼と接触したのか?」
「まだです。彼はこちらの動きに気づいていません。」
ケンウッドがちょっと息を継いだ。
「では、今いる場所から彼が直ぐにいなくなると言う懸念はないのだね?」
「ありません、今の所は・・・」
恐らく、局長が職場に戻ってから具体的な指示が出るだろうとレインは予想した。
「ハイネは明日の午後まで休みだ。」
と言うことは、体調不良ではなさそうだ。
「休暇を取られたのですか?」
非常に珍しいことだが、遺伝子管理局長にだって休暇は必要だ。レインもその程度の常識は考えられた。
「休暇と言えば休暇だ。」
とケンウッド長官は曖昧な言い方をした。
「今朝から野外シミュレーションフロアで、執政官3名と共に野外訓練をしている。」
「はぁ?」
思わず声に出してしまい、レインは慌てて「失礼」と謝った。
野外シミュレーション・システムは、人類が宇宙に出た頃に開発されたプログラムと装置で、広い室内に模擬野外を作り出す。様々な条件の組み合わせで無限大の人工の自然風景を屋内に作り、その中で人間は本当の自然の中で活動している気分に浸れる。元は狭い宇宙船やコロニーで鬱になるのを防ぐ目的で開発された医療用システムだ。それが娯楽用に改良されたり、軍隊の訓練用に利用されるようになり、再現される自然のパターンが数えきれなくなった。
ドームでは、ドーム外に出る仕事をするドーマーの訓練用に使用され、空いている時間帯はコロニー人もドーマーも予約さえ入れれば娯楽に使える。
レインは訓練生時代に使ったが、それ以降は本物の自然を体験しているので、フロアの存在すら忘れていた。確か、ドームの地下4階ではなかったか?
「局長が野外訓練ですか?」
生まれてから1度も外に出たことがないローガン・ハイネ・ドーマーなら、訓練も嬉しいだろうが、必要性はあるのだろうか? とレインが疑うと、ケンウッド長官はちょっと笑った気配だった。
「ハイネは名目上訓練だが、コロニー人達はただの娯楽だ。キャンプに行ったのだよ。」
ハイネ局長を娯楽に付き合わせられる人間と言えば、1人しかレインは思いつかなかった。
「ヤマザキ博士の休暇なのですね?」
「うん。それにアイダ出産管理区長と、クローン製造部のティム・マーランドだ。」
医療区関係の人々の休暇に、ハイネ局長は引っ張り込まれたのだろう。レインはちょっと皮肉ってみた。
「長官にはお誘いがなかったのですか?」
ケンウッドが笑った。
「私はキャンプは苦手でね。ハイキング程度なら参加しただろうが・・・兎に角」
彼は本題に戻った。
「明日、ハイネが戻ってから具体的に検討しよう。君はいつ帰投する?」
「今夜です。」
「では、効力切れ休暇だな。申し訳ないが、午後は少し時間をくれないか。3人で話し合おう。」
「了解しました。」
レインは通話を終えて、深呼吸した。
遂に、この日が来た!
やがてケンウッドの声が質問して来た。
「彼は元気なのだね?」
何を生業にしているのか、とか、誰と一緒にいるのか、とかではなく、最初にそれを訊いて来た。レインは目を閉じた。目の奥が熱くなったからだ。感情の波を出すまいと彼は用心した。
「元気そうです。」
「1人か?」
「同居人が1人いる様子です。」
どんな同居人か、長官は尋ねなかった。代わりにこう質問した。
「彼は、固定された住まいを持っているのかね?」
「はい。」
「今君がいる場所から近いのか?」
「車で2時間ばかりの僻地ですが、遠くはありません。」
「君は彼と接触したのか?」
「まだです。彼はこちらの動きに気づいていません。」
ケンウッドがちょっと息を継いだ。
「では、今いる場所から彼が直ぐにいなくなると言う懸念はないのだね?」
「ありません、今の所は・・・」
恐らく、局長が職場に戻ってから具体的な指示が出るだろうとレインは予想した。
「ハイネは明日の午後まで休みだ。」
と言うことは、体調不良ではなさそうだ。
「休暇を取られたのですか?」
非常に珍しいことだが、遺伝子管理局長にだって休暇は必要だ。レインもその程度の常識は考えられた。
「休暇と言えば休暇だ。」
とケンウッド長官は曖昧な言い方をした。
「今朝から野外シミュレーションフロアで、執政官3名と共に野外訓練をしている。」
「はぁ?」
思わず声に出してしまい、レインは慌てて「失礼」と謝った。
野外シミュレーション・システムは、人類が宇宙に出た頃に開発されたプログラムと装置で、広い室内に模擬野外を作り出す。様々な条件の組み合わせで無限大の人工の自然風景を屋内に作り、その中で人間は本当の自然の中で活動している気分に浸れる。元は狭い宇宙船やコロニーで鬱になるのを防ぐ目的で開発された医療用システムだ。それが娯楽用に改良されたり、軍隊の訓練用に利用されるようになり、再現される自然のパターンが数えきれなくなった。
ドームでは、ドーム外に出る仕事をするドーマーの訓練用に使用され、空いている時間帯はコロニー人もドーマーも予約さえ入れれば娯楽に使える。
レインは訓練生時代に使ったが、それ以降は本物の自然を体験しているので、フロアの存在すら忘れていた。確か、ドームの地下4階ではなかったか?
「局長が野外訓練ですか?」
生まれてから1度も外に出たことがないローガン・ハイネ・ドーマーなら、訓練も嬉しいだろうが、必要性はあるのだろうか? とレインが疑うと、ケンウッド長官はちょっと笑った気配だった。
「ハイネは名目上訓練だが、コロニー人達はただの娯楽だ。キャンプに行ったのだよ。」
ハイネ局長を娯楽に付き合わせられる人間と言えば、1人しかレインは思いつかなかった。
「ヤマザキ博士の休暇なのですね?」
「うん。それにアイダ出産管理区長と、クローン製造部のティム・マーランドだ。」
医療区関係の人々の休暇に、ハイネ局長は引っ張り込まれたのだろう。レインはちょっと皮肉ってみた。
「長官にはお誘いがなかったのですか?」
ケンウッドが笑った。
「私はキャンプは苦手でね。ハイキング程度なら参加しただろうが・・・兎に角」
彼は本題に戻った。
「明日、ハイネが戻ってから具体的に検討しよう。君はいつ帰投する?」
「今夜です。」
「では、効力切れ休暇だな。申し訳ないが、午後は少し時間をくれないか。3人で話し合おう。」
「了解しました。」
レインは通話を終えて、深呼吸した。
遂に、この日が来た!