2018年8月19日日曜日

4X’s 2 2 - 7

 ハイデッカー率いる北米南部班第4チームの報告書はチーフ・レインを通して局長室に送られていたので、ハイネはその日のうちに目を通した。メーカー同士の銃撃戦で17名も死者が出たのは残念だった。しかも1名は女だ。人口を減らすことはドームの方針に反する。幸いなことに、この手の報告を執政官に伝える義務はなかったので、ケンウッド長官を悲しませずに済みそうだった。
 レインがスコットフィールド警部補と共に砂漠の中のメーカーのアジトを家宅捜査している頃、ハイネは日課を終えて中央研究所へ長官執務室で行われる日程打ち合わせに出かける途中、コンビニに立ち寄った。おやつのスティックチーズの在庫が減ったので補充するつもりだった。
 ホームストックコーナーでグレゴリー・ペルラ・ドーマーが補修用テープを選んでいるのが見えたので、側へ行った。

「おはよう、グレゴリー。」

 声をかけると、ペルラ・ドーマーが振り返った。ニッコリ笑って、おはようございます、と返してきた。

「キャンプはいかがでしたか? 先日は局長が本部にお帰りになる前に帰ってしまい、申し訳ありませんでした。『黄昏の家』から厨房の調理器具が故障したと緊急連絡が入って、慌ててしまったので・・・昼食時間が迫っていましたから。」
「ジェレミーが余裕で仕事を片付けていたから、君が謝ることはないさ。調理器具は直ったのかね?」
「はい、なんとか私の腕で修理可能な部分でしたので・・・エイブは細かい機械部品は扱いませんからね、厨房から修理要請をもらった途端に私に連絡を寄越したんですよ。」

 ペルラはテープを3個抱えた。ハイネの買い物はなんとなく見当がついたので、彼は食品コーナーへ歩き始めた。ハイネも当然そちらへ向かう。

「・・・それで、キャンプはいかがでした?」
「どうしても知りたいか?」

 ハイネはちょっとしかめっ面を作って見せたが、本心でないことがペルラには直ぐにわかった。

「ボルダリングやトレッキングは楽しかった。私も地球にいるのだな、とちょっと嬉しい気分になったよ。しかし、料理はいかんなぁ。」
「駄目ですか?」
「生まれて100年目にして、じゃがいもの皮を初めて剥いたのだぞ。」
「それは・・・お労しい・・・」

 ペルラ・ドーマーも料理はしないので、ハイネに同情した。

「生の鶏肉にもナイフを入れた。火の通りが良くなるとかで。」
「まさか、医療区長は局長お一人に料理をさせたのではないでしょうね?」
「ははは・・・一応4人全員で分担したさ。アイダ博士は味付け担当で、マーランド研究員は炒めたり焼いたりの作業担当だ。」
「ヤマザキ博士は?」
「彼は指導全般、一番忙しかっただろうな、素人ばかりを相手にしていたから。」

 チーズコーナーでハイネはいつものおやつ用チーズを手に取った。

「グレゴリー、背中の調子はどうだ?」

 唐突に古傷のことを持ち出されて、ペルラは面食らった。

「いつもと変わりませんよ、疲れるとチクチクしますが・・・」

 それが何か?と聞こうとしたが、ハイネは既にレジの前にいた。ペルラも慌てて隣のレジにテープを出して支払った。テープ代は公費で落とすので、ハイネは奢ってくれない。
ドーマー達はしっかり公私を分けていた。
 コンビニの店舗から出たところで、ハイネが一言囁いた。

「北米南部班がラムゼイを見つけた。」