2018年8月16日木曜日

4X’s 2 1 - 5

 遺伝子管理局本部局長室にドーム長官が顔を出すとちょっとした騒ぎと言うか噂が本部内に広がってしまうので、ケンウッドはポール・レイン・ドーマーの報告を聞く場所を長官執務室に指定した。2名の秘書は口が固いし、局長や局員が長官の部屋に呼ばれても誰も気にしない。執政官は業務上必要があればいつでも誰でもドーマーを呼び出せるからだ。局長には秘書に出頭要請を託けてあった。キャンプからいつ戻るのか知らないが、ハイネの性格上、必ず本部に顔を出して留守居役のペルラ・ドーマーとセルシウス・ドーマーから業務引き継ぎを行う筈だ。この2名の元秘書は、以前は1人で留守居の仕事をしていたが、最近はペルラ・ドーマーの視力が衰え、仕事をこなす速度も落ちてきたので、セルシウスが自主的に助っ人を買って出た。2人で分業して局長の日課を代行しているのだ。第1秘書のネピア・ドーマーにとって、この2人の師匠が同席するのは煙たいだろうが、ハイネは彼等元秘書の健康の為にもなると思って、近頃はよく仕事の代行を頼むようになった。結婚したので妻との時間をもっと持ちたいだろうし、彼自身も高齢なので時々休憩したいのだ、とケンウッドは解釈している。それに代行を依頼される元秘書達が、まだ必要とされることに喜びを感じていることは、彼も嬉しかった。

 友人達にはいつまでも健康で元気でいてもらいたい。

 そして、約束の時間より半時間早くハイネ局長が長官執務室に現れた。野外シミュレーションフロアから直接本部に顔を出し、伝言を聞いてそのまま出頭したので、私服のままだった。ヤマザキが見立てたのか、アイダが選んだのか知らないが、いかにも野外でトレッキングする身なりだった。勤務中のドーマー達の殆どが各部署の制服を着用しているので、トレッキング用の服装はさぞかし目立ったことだろう。しかし、ローガン・ハイネ・ドーマーは生まれた時から人々の注目を浴びて生きて来たので、他人の視線を全く気にしなかった。
 
「キャンプはどうだった? 楽しかったかい?」

 ケンウッドがお気楽に尋ねると、ハイネは顔を少ししかめた。

「歩いたり、登ったりするのは面白いですが、テント設営や料理は難しくて手こずりました。」
「おや、そうかね? テントや料理がキャンプの醍醐味の筈だが?」
「私の趣味ではありません。」

 赤ん坊の時から大切に大切に育てられて家事一切をしたことがない100歳の地球人はツンツンして言い放った。

「ドクターに言っておきました。次に私をキャンプに誘う時は、夕食の弁当を用意して、夜は寝袋だけで結構、と。」

 ケンウッドは笑ってしまった。ハイネは「山歩き」自体は嫌いではないのだ。地面で寝るのも構わない。普段から庭園の芝生の上で直に横になって昼寝しているのだから。

「ケンタロウに料理は自分でしろと言っておくよ。」

 やっとハイネの機嫌が直る頃に、ポール・レイン・ドーマーが到着したと秘書のスメアが告げた。