野外シミュレーション・システムは利用者が歩けばどんどん風景を変化させて、「移動」の気分を存分に味わせてくれる。利用者は同じ場所をぐるぐる歩き回っているだけなのだが、風景が変化するのでひたすら野山を歩いている気分になるのだ。それに床も変化して凹凸が出来るし、急峻な坂道を登っている気分にもなる。ボルダリングもプログラミングの段階で挿入しておくと、コンピュータが適当な頃に壁を立ててくれる。
ヤマザキ・ケンタロウは参加者全員の体力を考えて、無理なプログラムを入れない様に気をつけた。
アイダ・サヤカは女性だし、あまり長時間の歩行を経験していない。ただ腕の力はあるので低い壁は十分に登れた。ぽっちゃり体型からは予想しなかった運動神経の良さで難なく「山登り」についてきた。
ティム・マーランドは歩くのは平気だったが、川を渡る時に躊躇った。屋内施設だから、川は浅く幅もなかったのだが、傾斜が大きいので急流だった。マーランドは水泳が不得手で、水流を怖がったのだ。しかしそこで床を動かすのは不可能だったので、跳んでもらうしかなかった。
ローガン・ハイネは局長職に就く前、よくこのフロアで時間を過ごしていたので、余裕だった。アイダの荷物を持ってやり、マーランドの川越えには手を貸した。しかし、キャンプは初体験だったので、テントの設営に時間を食った。
屋内なので火気厳禁だから、キャンプファイアは不可能だったが、電子調理器具は持参できたので、自炊する。ヤマザキは下ごしらえしていない食材を3人の仲間に料理させてみたのだが・・・。
アイダはコロニー時代は人妻として母親として、それなりに台所仕事の経験があった。しかし「屋外調理」は未経験だった。コロニー人はあらかじめ調味料や下ごしらえどころか加熱も済んだ食材を購入して盛り付けだけするのが常識で、生の食材から始めるのは初めてだったのだ。マーランドは食材を炒めたり焼いたりを担当したが、熱におっかなびっくりだった。ハイネに至っては、意外にも刃物が苦手だった。食事のナイフと同じだよと言っても、皮むきや刻むのを怖がった。生の肉にも触れないのだ。結局ヤマザキは3人の間を歩き回って指導に忙殺された。
なんとかチキンとパンが焼けて、サラダを盛り付けて、食事にありつけた時は夜中近かった。ノンアルコールのビールで乾杯してから、ヤマザキは仲間を見て笑った。
「君達、ドームの外に出て暮らせと言われたら、野垂れ死にするんじゃないか?」
「ドームの外にもコンビニはあるでしょう!」
マーランドが反論した。
「だが、自分で一から料理した方が安く済むんだぞ。」
ヤマザキはさも野外生活の経験が豊富そうな顔で言った。
「ハイネは地球人なんだから、木を擦り合わせて火を起こすところから学ばないと。」
「どうしてですか?」
ハイネも不満げに反論した。
「そんな原始的なことをしなくても、火は作れるでしょう? それに火を使うのに、地球人もコロニー人もありませんよ。」
「怒らないでくれよ。」
ヤマザキは片目を瞑った。
「このフロアで君を見ていると、人間に育てられて野生を知らないライオンを連想するんだ。」
するとアイダがポツンと呟いた。
「ダリル坊やはきっと1人で全部出来ているのでしょうね。」
ヤマザキは彼女を見た。
「君は彼が生まれた時は、まだここに来ていなかっただろう? 僕だってまだだった。」
「確かに、彼は私が来る前に生まれましたけど、キーラが助手として関わったので、話はよく聞いていました。好奇心が強くてなんでも自分でやってみないと気が済まない子だったと聞きましたよ。私が接した時はもう大きくなっていましたので、やんちゃな男の子と言う印象でしたけど。」
「明日の朝食も同じ手間なんですか?」
マーランドが不安げに尋ねた。ヤマザキはリュックに目をやった。
「朝飯はパンの残りを食べよう。卵料理はできるよな、君達?」
ハイネがアイダを見た。マーランドも彼女を見た。アイダが溜め息をついた。
「はいはい、私が担当します。」
するとハイネが期待を込めて言った。
「チーズオムレツをお願いします。」
ヤマザキ・ケンタロウは参加者全員の体力を考えて、無理なプログラムを入れない様に気をつけた。
アイダ・サヤカは女性だし、あまり長時間の歩行を経験していない。ただ腕の力はあるので低い壁は十分に登れた。ぽっちゃり体型からは予想しなかった運動神経の良さで難なく「山登り」についてきた。
ティム・マーランドは歩くのは平気だったが、川を渡る時に躊躇った。屋内施設だから、川は浅く幅もなかったのだが、傾斜が大きいので急流だった。マーランドは水泳が不得手で、水流を怖がったのだ。しかしそこで床を動かすのは不可能だったので、跳んでもらうしかなかった。
ローガン・ハイネは局長職に就く前、よくこのフロアで時間を過ごしていたので、余裕だった。アイダの荷物を持ってやり、マーランドの川越えには手を貸した。しかし、キャンプは初体験だったので、テントの設営に時間を食った。
屋内なので火気厳禁だから、キャンプファイアは不可能だったが、電子調理器具は持参できたので、自炊する。ヤマザキは下ごしらえしていない食材を3人の仲間に料理させてみたのだが・・・。
アイダはコロニー時代は人妻として母親として、それなりに台所仕事の経験があった。しかし「屋外調理」は未経験だった。コロニー人はあらかじめ調味料や下ごしらえどころか加熱も済んだ食材を購入して盛り付けだけするのが常識で、生の食材から始めるのは初めてだったのだ。マーランドは食材を炒めたり焼いたりを担当したが、熱におっかなびっくりだった。ハイネに至っては、意外にも刃物が苦手だった。食事のナイフと同じだよと言っても、皮むきや刻むのを怖がった。生の肉にも触れないのだ。結局ヤマザキは3人の間を歩き回って指導に忙殺された。
なんとかチキンとパンが焼けて、サラダを盛り付けて、食事にありつけた時は夜中近かった。ノンアルコールのビールで乾杯してから、ヤマザキは仲間を見て笑った。
「君達、ドームの外に出て暮らせと言われたら、野垂れ死にするんじゃないか?」
「ドームの外にもコンビニはあるでしょう!」
マーランドが反論した。
「だが、自分で一から料理した方が安く済むんだぞ。」
ヤマザキはさも野外生活の経験が豊富そうな顔で言った。
「ハイネは地球人なんだから、木を擦り合わせて火を起こすところから学ばないと。」
「どうしてですか?」
ハイネも不満げに反論した。
「そんな原始的なことをしなくても、火は作れるでしょう? それに火を使うのに、地球人もコロニー人もありませんよ。」
「怒らないでくれよ。」
ヤマザキは片目を瞑った。
「このフロアで君を見ていると、人間に育てられて野生を知らないライオンを連想するんだ。」
するとアイダがポツンと呟いた。
「ダリル坊やはきっと1人で全部出来ているのでしょうね。」
ヤマザキは彼女を見た。
「君は彼が生まれた時は、まだここに来ていなかっただろう? 僕だってまだだった。」
「確かに、彼は私が来る前に生まれましたけど、キーラが助手として関わったので、話はよく聞いていました。好奇心が強くてなんでも自分でやってみないと気が済まない子だったと聞きましたよ。私が接した時はもう大きくなっていましたので、やんちゃな男の子と言う印象でしたけど。」
「明日の朝食も同じ手間なんですか?」
マーランドが不安げに尋ねた。ヤマザキはリュックに目をやった。
「朝飯はパンの残りを食べよう。卵料理はできるよな、君達?」
ハイネがアイダを見た。マーランドも彼女を見た。アイダが溜め息をついた。
「はいはい、私が担当します。」
するとハイネが期待を込めて言った。
「チーズオムレツをお願いします。」