「4Xを守って?」
とハイネ局長が呟いた。レインが局長を振り返った。
「まるで人のことを言っている様に聞こえますね。」
「うん・・・」
ハイデッカーは局長がコンピュータをただ眺めているだけではないことに気が付いた。何かの書類を読んでいるのだ。
「世間で流布している方程式ではないだろう。」
ハイネはやっと顔を上げて、2人の部下を交互に見た。
「押収した書類のどこを見ても、方程式などない。」
「局長、ええっと、それは・・・?」
ハイデッカーの質問に、レインが答えた。
「局長が目を通しておられるのは、君がベーリングの研究所で押収したベーリングのファイルだ。4Xを開発したと豪語した当人のファイルに、肝心のものが1行も書かれていないのだよ。」
「それは・・・?」
「ベーリングは方程式など持っていなかったのだ。」
レインがハイデッカーに尋ねた。
「君は2人目の女性の発見には至らなかったんだな?」
「はい・・・ベーリングのアジトから連れ去られるのを見た時は、確かに2人いたのです。マルセルと彼女より若い女性、恐らくまだ未成年なのではないかと・・・」
するとレインが自身の端末を出して画像を検索した。1人の少女の顔写真を出して、ハイデッカーの前に突き出した。
「この娘か?」
ハイデッカーの目が丸くなった。
「そうですっ! この少女です! チーフ、どうして彼女の写真をお持ちなんです?」
「俺が持っていたんじゃない、ラムゼイの資料の中にあったんだ。」
レインは写真を局長にも見せた。ハイネは端末の画面の中の少女を眺め、呟いた。
「普通の女の子に見えるが?」
「そうです。しかし、この娘が4Xなんです。」
局長と第4チーム・リーダーが物問いたげにレインを見つめた。レインは種明かしをした。
「ラムゼイのアジトの銃撃戦で生存者が1人います。今日の昼に、病院へ行くと意識を取り戻したところでした。医師がまだ話は出来ないと言うので、接触テレパスを使いました。」
レインは怪我人の腕に指を置いて質問した。怪我人の身元は遺伝子鑑定で判明したが、一応名前を尋ねた。怪我人は当然口をつぐんでいたが、レインがアダムとファーストネームを呼ぶと諦めた様な表情になった。クーガー・メンタル・クリニックの経営者の名前を尋ねると、ヴィンス・パーカーと言う名前をアダムは思い浮かべた。しかし、彼の脳裏に浮かんだ顔は、1人の老人だった。レインがドームのライブラリで見た「死体クローン事件」の中心人物だった遺伝子学者が歳を取ったと想定した顔、そのものだった。
レインが「サタジット・ラムジーだろう?」と尋ねると、アダムはただ困惑した。ボスの本名も正体も知らないのだ。接触テレパスでは嘘は見えない。
レインはアダムがベーリングのアジトから拐った女性のことを尋ねた。アダムは2人の女の顔を思い浮かべた。ベーリングの女房と、4X、と彼の心は呟いた。
「少女の顔を思い浮かべて、あの男の心は4X、4Xと繰り返していたのです。」
ハイデッカーが困惑した顔で尋ねた。
「4Xは、少女の名前・・・呼び名なんですか?」
「あのアダムと言う男はそう呼んでいた。彼女はベーリングの妻が産んだのだ。ベーリングは娘をXの4倍体だと宣伝していたらしい。何故、そんな遺伝子の多倍体が誕生したのか、説明はなかった。しかし、事実、それは人間の姿で産まれ、人間として成長した。
ベーリング夫妻はその子供を研究室の中で極秘で育てていたのだが、どこかで情報が漏洩し、世間、この場合はメーカーの世間だが、の知ることとなった。
俺達は情報の真偽の確認に手間取り、その隙にラムゼイに先を越されたのだ。ラムゼイは力づくでも手に入れる価値が、その少女にあると考えた。」
レインはハイデッカーにそう語り、局長を振り返った。
「Xの4倍体は手下の命を賭けて手に入れる価値があるのでしょうか?」
ドーマー達は互いに家族だと思っている。仲間の生命の危険を冒してまで手に入れる価値があるものなど、思いつかない。そんなものが存在するとは信じられない。
ハイネは肩をすくめた。
「染色体異常は現代では妊娠が確認された時点で、ドームに収容されて治療されるので、誕生後の生活に支障は出ないし、奪い合う様なものではない。起きる確率が希少だと言うだけだ。
4倍体と言うのは、ベーリングが宣伝していただけで、証明した訳ではないだろう?宣伝する目的がわからない。恐らく、女の子が生まれた理由を誤魔化す為に、そう言ったのではないのか。」
「誤魔化す?」
ハイデッカーが何か閃いた様だ。
「局長、もしや、4Xは遺伝子組み替え人間ではありませんか? 宇宙ではどんどん作っている様ですが、地球では禁止されています。」
「そうか・・・」
とレインも頷いた。
「地球では人間の遺伝子組み替えは大罪です。ベーリングは念願の女子を作ってみたものの、公表する勇気がなかったに違いない。だから4倍体と誤魔化したんだ。」
とハイネ局長が呟いた。レインが局長を振り返った。
「まるで人のことを言っている様に聞こえますね。」
「うん・・・」
ハイデッカーは局長がコンピュータをただ眺めているだけではないことに気が付いた。何かの書類を読んでいるのだ。
「世間で流布している方程式ではないだろう。」
ハイネはやっと顔を上げて、2人の部下を交互に見た。
「押収した書類のどこを見ても、方程式などない。」
「局長、ええっと、それは・・・?」
ハイデッカーの質問に、レインが答えた。
「局長が目を通しておられるのは、君がベーリングの研究所で押収したベーリングのファイルだ。4Xを開発したと豪語した当人のファイルに、肝心のものが1行も書かれていないのだよ。」
「それは・・・?」
「ベーリングは方程式など持っていなかったのだ。」
レインがハイデッカーに尋ねた。
「君は2人目の女性の発見には至らなかったんだな?」
「はい・・・ベーリングのアジトから連れ去られるのを見た時は、確かに2人いたのです。マルセルと彼女より若い女性、恐らくまだ未成年なのではないかと・・・」
するとレインが自身の端末を出して画像を検索した。1人の少女の顔写真を出して、ハイデッカーの前に突き出した。
「この娘か?」
ハイデッカーの目が丸くなった。
「そうですっ! この少女です! チーフ、どうして彼女の写真をお持ちなんです?」
「俺が持っていたんじゃない、ラムゼイの資料の中にあったんだ。」
レインは写真を局長にも見せた。ハイネは端末の画面の中の少女を眺め、呟いた。
「普通の女の子に見えるが?」
「そうです。しかし、この娘が4Xなんです。」
局長と第4チーム・リーダーが物問いたげにレインを見つめた。レインは種明かしをした。
「ラムゼイのアジトの銃撃戦で生存者が1人います。今日の昼に、病院へ行くと意識を取り戻したところでした。医師がまだ話は出来ないと言うので、接触テレパスを使いました。」
レインは怪我人の腕に指を置いて質問した。怪我人の身元は遺伝子鑑定で判明したが、一応名前を尋ねた。怪我人は当然口をつぐんでいたが、レインがアダムとファーストネームを呼ぶと諦めた様な表情になった。クーガー・メンタル・クリニックの経営者の名前を尋ねると、ヴィンス・パーカーと言う名前をアダムは思い浮かべた。しかし、彼の脳裏に浮かんだ顔は、1人の老人だった。レインがドームのライブラリで見た「死体クローン事件」の中心人物だった遺伝子学者が歳を取ったと想定した顔、そのものだった。
レインが「サタジット・ラムジーだろう?」と尋ねると、アダムはただ困惑した。ボスの本名も正体も知らないのだ。接触テレパスでは嘘は見えない。
レインはアダムがベーリングのアジトから拐った女性のことを尋ねた。アダムは2人の女の顔を思い浮かべた。ベーリングの女房と、4X、と彼の心は呟いた。
「少女の顔を思い浮かべて、あの男の心は4X、4Xと繰り返していたのです。」
ハイデッカーが困惑した顔で尋ねた。
「4Xは、少女の名前・・・呼び名なんですか?」
「あのアダムと言う男はそう呼んでいた。彼女はベーリングの妻が産んだのだ。ベーリングは娘をXの4倍体だと宣伝していたらしい。何故、そんな遺伝子の多倍体が誕生したのか、説明はなかった。しかし、事実、それは人間の姿で産まれ、人間として成長した。
ベーリング夫妻はその子供を研究室の中で極秘で育てていたのだが、どこかで情報が漏洩し、世間、この場合はメーカーの世間だが、の知ることとなった。
俺達は情報の真偽の確認に手間取り、その隙にラムゼイに先を越されたのだ。ラムゼイは力づくでも手に入れる価値が、その少女にあると考えた。」
レインはハイデッカーにそう語り、局長を振り返った。
「Xの4倍体は手下の命を賭けて手に入れる価値があるのでしょうか?」
ドーマー達は互いに家族だと思っている。仲間の生命の危険を冒してまで手に入れる価値があるものなど、思いつかない。そんなものが存在するとは信じられない。
ハイネは肩をすくめた。
「染色体異常は現代では妊娠が確認された時点で、ドームに収容されて治療されるので、誕生後の生活に支障は出ないし、奪い合う様なものではない。起きる確率が希少だと言うだけだ。
4倍体と言うのは、ベーリングが宣伝していただけで、証明した訳ではないだろう?宣伝する目的がわからない。恐らく、女の子が生まれた理由を誤魔化す為に、そう言ったのではないのか。」
「誤魔化す?」
ハイデッカーが何か閃いた様だ。
「局長、もしや、4Xは遺伝子組み替え人間ではありませんか? 宇宙ではどんどん作っている様ですが、地球では禁止されています。」
「そうか・・・」
とレインも頷いた。
「地球では人間の遺伝子組み替えは大罪です。ベーリングは念願の女子を作ってみたものの、公表する勇気がなかったに違いない。だから4倍体と誤魔化したんだ。」