2018年8月31日金曜日

4X’s 2 4 - 4

 ヴァレリア・サントスがケンウッドを見た。ちょっと悪戯っぽく笑いながら話しかけてきた。

「何故私が彼女の秘書になっているのか、訊かないの、ニコ?」

 ケンウッドは努めてつっけんどんに答えた。

「他人の就職の理由を詮索するほど、私は暇じゃないんだ。」
「でも、大好きなお肌の研究はしていないようね。」

 彼女の皮肉に、ケンウッドは乗せられまいと己に言い聞かせた。彼女は彼を自分のペースに引き込もうとしている。

「大好きな研究をする時間を取る暇もない忙しさだと、気がつかないのかね?」
「・・・そうなんだ。」

 サントスはまだ笑っていた。

「じゃぁ、政治家がイメージ戦略の為にドームを見学するのは、大いにお邪魔でしょうね。」
「当然だろう。」

 しかも、とケンウッドは心の中で毒づいた。よりにもよってあの女とこの女だ・・・。
彼はガラス壁の向こうの景色に注意を向けた。

「おい、カメラの用意は良いのか? ケプラー議員が着替えて登場したぞ。」
「ご指摘、有り難う。」

 サントスが掌サイズのカメラをガラスの向こうへ向けた。議員がアイダ博士とゴーン副長官に挟まれる形で保育室に入り、赤ん坊を1人1人順番に眺めていくのを撮影した。議員は男性支持者を虜にする魅力的な笑顔を絶やさなかったが、秘書はちょっと不満顔だった。

「赤ちゃんを抱き上げてくれれば良いのに・・・」
「それは駄目だ。規則で禁止されている。」

 ケンウッドがやんわり彼女を制した。

「担当スタッフと母親以外は赤ん坊に触れないことになっている。」
「ふーーん・・・ここ、結構厳しいのね。貴方には丁度良いのかも知れないけど。」
「私に丁度良いって?」

 彼は彼女を見た。

「私が厳しさを好んでいると?」
「貴方は真面目なの。厳しいんじゃなくて・・・」

 ケプラー議員がこちらを向いた。ケンウッドとサントスが会話をしているのを見て、微かに眉を顰めた。サントスが彼女に微笑みを送ったので、議員もニッコリした。
 ケンウッドはサントスの希望を叶えてやることにした。

「君が彼女に売り込んだのかい? それとも彼女が君を拾ったのかな?」
「失礼な物言いね。」

 サントスはちょっと剥れて見せた。そして意味深に彼を見て言った。

「お互いに一目惚れしたのよ。」