2018年8月19日日曜日

4X’s 2 2 - 4

 ヤマザキ・ケンタロウはハイネ局長の要請にあまり良い顔をしなかったが、それでも「一回きり」と言う条件で薬品の一部を別のものに置き換えてポール・レイン・ドーマーに注射してくれた。
 レインは注射を済ませると直ぐに航空機の手配をしてドームの外に出た。お供は連れなかった。これも出来るだけ2名1組で行動する決まりに反していたが、チーフやリーダーともなれば平気で破る規則だったので、彼は気にしなかった。
 航空班はレイン1人の為に飛行機を飛ばしたりしない。西行きの便に同乗させてくれたのだ。急な割り込みだったので、遺伝子管理局用の座席は用意しておらず、レインは一般の人々と隣り合った席になった。周囲の男達は彼が遺伝子管理局の人間とは思わず、出産を終えて帰宅する妻と同乗している夫の1人だと思った。男達は気が合った人と言葉を交わす他は妻の座席に移動して見たり、黙して寝ていたり、映画を見て機内の時間を過ごしていた。レインの美貌に注意を向ける男もいたが、彼等は女性を妻に出来た幸運な人々だ。言い寄ってくる者はいなかった。
 第4チームは抗原注射の効力切れを心配して既に支局に戻っていた。リーダーのハイデッカーが空港でレインを出迎えた。彼はチーフが1人で来たので、心配そうな表情になった。

「チーフ、お一人でクーガー・メンタル・クリニックへ調査に行かれるおつもりですか?」
「警察で案内してくれる人間がいれば助かるが・・・」

 レインが1人で行くつもりがないとわかり、ハイデッカーは安心した。直ぐに警察の担当者に連絡を入れた。1分ほどやりとりしてから、彼は上司を振り返った。

「スコットフィールド警部補が明日の午前中に現地に行くので、ご一緒しませんかと言ってます。」
「わかった。」

 直ぐにでも現地に行きたかったが、片道3時間もかかる場所に午後になってから出かけても周囲に心配をかけるだけだ。レインは賢明にも逸る気持ちを抑えた。その代わり、ハイデッカーと共に警察が確保した生存者に面会することにした。
 タンブルウィードは中西部では大都市だが、東海岸の人間から見れば小さな田舎町に過ぎない。レインとハイデッカーは車で5分の警察署へ向かった。