ポール・レイン・ドーマーは翌朝、普段より少し早めに起きて、ジョギングに出た。彼の予想通り、運動場では既にハイネ局長が走っていた。レインは足を早めた。局長は彼より少し背が高く、脚も長い。そして走るスピードも速い。レインはほぼ全力疾走に近い走りで局長を追いかけた。まるで白馬を追いかけているみたいだ、と思い、なんとか横に並んだ。局長が彼をちらりと見て、速度を落としてくれた。
「おはよう、レイン。何か報告か?」
「お・・・おはようございます・・・」
レインは流石に息が続かず、すぐには言葉が出なかった。局長は辛抱強く彼が話せる迄ゆっくり走ってくれた。
「ベーリングが・・・襲撃者のアジトを・・・攻撃しました。」
レインは何とか聞き取れる声で言った。局長がさらに速度を落とし、とうとう歩き始めた。
「走り終わる迄待てないとは、かなり急を要する報告だな?」
「すみません。襲撃者の正体が判明しました。」
レインはクーガー・メンタル・クリニックと称する療養所の経営者の名前を告げた。
「ただし、この人物は街中で別のクリニックを経営している医者で、メーカーに名義貸しをしているだけです。クーガーの本当の経営者は、ラムゼイです。」
ハイネが振り返った。
「確かか?」
「確かです。警察が生存者に確認しました。」
「生存者?」
レインはかなり端折り過ぎたことに気が付いた。事件の経過報告をまだしていなかった。
「すみません、報告が前後してしまいました。昨夜遅くベーリングの一味は、拉致された女性達を奪還する目的で、クーガー・メンタル・クリニックを攻撃しました。距離を置いて観察した第4チームの報告によると、激しい銃撃戦になったそうです。入院患者に被害が及ぶことを危惧したハイデッカーが警察に通報しました。
警察が到着したのは3時間後、今からほんの1時間前です。その頃には銃撃戦は終わっており、現場は静かだったそうです。
警察が中に入ったので、ハイデッカーは部下を支局に帰らせて彼1人で警察に合流しました。」
ハイデッカーは拉致された女性の安否を早く確認したかったのだ。地球で女性は貴重だし、何故拐われたのか、理由も探らねばならない、と彼は考えた。
「ほぼ双方全滅だったそうです。」
「共倒れ?」
「はい。警察は現在、現場検証中で、身元確認が必要なので遺伝子管理局の協力を要請しています。ハイデッカーは一旦帰した部下がまだ砂漠にいるので呼び戻したところです。」
遺伝子管理局の局員は抗原注射の効力が持続する48時間は寝ずにぶっ通しで仕事に励むことが多い。ケンウッド長官が聞いたら心配する筈だが、ハイネは昔から局員の勤務状況はそう言うものだと言う認識があるので、何も言わなかった。
「ハイデッカーが見た範囲では、一般人の患者は犠牲者に含まれていないそうです。彼は警察に患者リストを見せてもらったのですが、クーガー・メンタル・クリニックは2日前に患者全員を退院させていました。」
「ベーリングの女性拉致を計画して、報復も想定していたのだな。」
「そうです。」
「しかし、防衛に失敗した・・・」
「ベーリングの反撃が想定より早過ぎたのです。時間をかけて計画を練って来ると思ったのでしょう。しかしベーリングは半時間も経たないうちに攻撃してきたので、応戦が十分に出来なかったみたいです。」
「所詮はメーカーだ。」
とハイネが見えない相手を小馬鹿にした様に呟いた。
「戦闘訓練を受けた訳ではなかろう。戦術顧問を置くことを考えなかった迂闊なヤツだ。」
彼は一瞬遠くを見る目つきになった。
「侵入者へのトラップも仕掛けなかった。隠れ蓑の一般人向け療養所がネックになったのか。」
「おはよう、レイン。何か報告か?」
「お・・・おはようございます・・・」
レインは流石に息が続かず、すぐには言葉が出なかった。局長は辛抱強く彼が話せる迄ゆっくり走ってくれた。
「ベーリングが・・・襲撃者のアジトを・・・攻撃しました。」
レインは何とか聞き取れる声で言った。局長がさらに速度を落とし、とうとう歩き始めた。
「走り終わる迄待てないとは、かなり急を要する報告だな?」
「すみません。襲撃者の正体が判明しました。」
レインはクーガー・メンタル・クリニックと称する療養所の経営者の名前を告げた。
「ただし、この人物は街中で別のクリニックを経営している医者で、メーカーに名義貸しをしているだけです。クーガーの本当の経営者は、ラムゼイです。」
ハイネが振り返った。
「確かか?」
「確かです。警察が生存者に確認しました。」
「生存者?」
レインはかなり端折り過ぎたことに気が付いた。事件の経過報告をまだしていなかった。
「すみません、報告が前後してしまいました。昨夜遅くベーリングの一味は、拉致された女性達を奪還する目的で、クーガー・メンタル・クリニックを攻撃しました。距離を置いて観察した第4チームの報告によると、激しい銃撃戦になったそうです。入院患者に被害が及ぶことを危惧したハイデッカーが警察に通報しました。
警察が到着したのは3時間後、今からほんの1時間前です。その頃には銃撃戦は終わっており、現場は静かだったそうです。
警察が中に入ったので、ハイデッカーは部下を支局に帰らせて彼1人で警察に合流しました。」
ハイデッカーは拉致された女性の安否を早く確認したかったのだ。地球で女性は貴重だし、何故拐われたのか、理由も探らねばならない、と彼は考えた。
「ほぼ双方全滅だったそうです。」
「共倒れ?」
「はい。警察は現在、現場検証中で、身元確認が必要なので遺伝子管理局の協力を要請しています。ハイデッカーは一旦帰した部下がまだ砂漠にいるので呼び戻したところです。」
遺伝子管理局の局員は抗原注射の効力が持続する48時間は寝ずにぶっ通しで仕事に励むことが多い。ケンウッド長官が聞いたら心配する筈だが、ハイネは昔から局員の勤務状況はそう言うものだと言う認識があるので、何も言わなかった。
「ハイデッカーが見た範囲では、一般人の患者は犠牲者に含まれていないそうです。彼は警察に患者リストを見せてもらったのですが、クーガー・メンタル・クリニックは2日前に患者全員を退院させていました。」
「ベーリングの女性拉致を計画して、報復も想定していたのだな。」
「そうです。」
「しかし、防衛に失敗した・・・」
「ベーリングの反撃が想定より早過ぎたのです。時間をかけて計画を練って来ると思ったのでしょう。しかしベーリングは半時間も経たないうちに攻撃してきたので、応戦が十分に出来なかったみたいです。」
「所詮はメーカーだ。」
とハイネが見えない相手を小馬鹿にした様に呟いた。
「戦闘訓練を受けた訳ではなかろう。戦術顧問を置くことを考えなかった迂闊なヤツだ。」
彼は一瞬遠くを見る目つきになった。
「侵入者へのトラップも仕掛けなかった。隠れ蓑の一般人向け療養所がネックになったのか。」