2018年8月19日日曜日

4X’s 2 2 - 6

 クーガー・メンタル・クリニックは砂漠の中のオアシスの様に緑の木々に囲まれていた。正面には噴水の池もあった。周辺に緑が少ないので、多分これは地下水を汲み上げて使っているのだろう。
 レインはスコットフィールド警部補の車から降りた。後ろから付いて来たパトカーから降りて来た制服警官に警部補は待機する様命じた。近く者がいればすぐ連絡せよと命じることも忘れなかった。
 警部補は「ジョンと呼んでくれ」と言ったが、レインは警部補で押し通している。当然、ポールとは呼ばせなかった。

「警部補、正面入り口のガラスは銃撃で割れていたのですか?」
「うん、そうらしいですね。かなり砂が入り込んだ様だが・・・」

 彼等はガラスの割れた箇所から中に入った。建物の中はガランとして広く、明るかった。警部補が説明した。

「中央部分が入院病棟で、2階に一般人がいた様です。襲撃時には全員退院させられた後でしたが。」
「クローン製造工場は?」
「地下です。エレベーターが使えないので、こちらの階段から降ります。」

 2人はライトを点灯して階段を降りた。地下室は死に支配されていた。血の匂いが漂い、床や壁に血痕が残っていた。床に人型のマークがいくつか描かれていた。

「見つかった女性は1人だけでしたね?」
「そうです。ハイデッカーさんのお話ではもう1人いなければならないそうですが・・・」
「逃げたのでしょうか?」
「それなら誰かが目撃している筈です。一本道だし、ここから別の道はない・・・」

 棚には資料らしきものがぎっしり詰まっていたが、銃弾で破壊されているものも少なくなかった。レインはそれらの棚に「押収物」と書かれた札を付けた。スコットフィールド警部補はそっと溜息をついた。押収作業は警察がするのだ。そして遺伝子管理局がごっそり支局に持ち去る。警察に返される時は何かが足りなくなっている。ドームに送られてしまった重要資料だ。今回も同じだろう。遺伝子管理局がごっそり警察に残してくれるのはメーカーだけだ。そしてメーカーの遺体。
 冷蔵室に思われた部屋は、成長途中のクローン胎児の育成室だった。レインはざっと中を歩いてクローン達のタグを読み、全部男の子だとわかると興味を失った。

「資料とタグを付き合わせて依頼者を特定しなきゃなりません。」

と彼は呟いた。スコットフィールドは頷いた。面倒臭い仕事だが、幸いこれは遺伝子管理局の仕事だ。

「胎児はどうします?」
「可哀想ですが、このままにしておきます。」
「2、3日もすれば栄養供給が止まって死んでしまいますが?」
「女性から生まれた胎児なら保護しますが、クローン、特に違法クローンは保護対象外です。法律的に生まれてはいけない赤ん坊です。育成管から出せる状態に生育している子供は助けますが、そこ迄成長していない物は人として扱いません。」

 レインは室内を見渡した。警部補も眺めて、育成管の外で生存可能な成長段階にいるクローンがいないことを確認した。

 ラムゼイのクローンだから外に出しても生き抜けるだろうが・・・

 レインはそこ迄警部補に伝えるつもりはなかった。男をこれ以上増やしてどうするのだ、と言う思いがあったのは事実だ。
 警部補が呟いた。

「噂のラムゼイのクローンだとしたら、依頼者は大金持ちでしょうね。前金でかなり支払っていると思いますよ。勿体無いなぁ。しかし・・・違法クローンですからね。」

 レインは滅多に冗談を言わない男だが、ふと不謹慎な冗談を思いついた。

「もし養子が欲しければ、1人持ち帰られますか? 手続きしますよ。」

 果たして、警部補は苦虫を潰した様な顔をした。

「ご冗談を・・・アタシはこれでも女房、子供がいるんですよ。」