2018年8月26日日曜日

4X’s 2 3 - 6

 ニコラス・ケンウッド長官は、地球人類復活委員会本部からの通知内容に頭を悩ませていた。月から来る連絡にロクなものがない、と言うのが彼の認識だった。
 ラナ・ゴーン副長官もケンウッドが転送した通知を見て、ゲンナリした表情を見せた。彼女は月での勤務期間が長かったが、その通知内容は月に居たとしても喜べないものだった。

「宇宙連邦議会のソフィア・ケプラー議員が、一体何の目的でこのドームを訪問なさるのです?」
「ただの見学だよ。連邦が地球人類復活に協力していることを宇宙に宣伝するためさ。」

 宇宙連邦は地球人類復活委員会に出資している訳ではない。そんなお金の余裕はない。しかし、宇宙連邦の防衛の為に、戦略的に利用出来る進化型1級遺伝子のストックを地球人に託しているし、地球の資源は広大な宇宙連邦にとっても無視出来ない価値がある。それに地球は現在でも人類の心の拠り所だ。だから、議会は地球が正常の状態に戻りつつあることを確認して、安心したい。
 政治家の相手は苦手だ、と言うのがケンウッドとゴーンの共通の思いだ。そしてケンウッドには更に個人的な思惑があった。
 ソフィア・ケプラーは彼の旧知だった。それもただの旧知ではない。だが彼はゴーンに彼女との関係を教えるつもりはなかった。遠い昔の出来事だ。向こうは思い出したこともなかったかも知れない。アメリカ・ドーム長官が彼女の旧知だと気がつかないかも知れない。

 互いに歳を取ったしなぁ・・・

 ゴーンが質問した。

「おもてなし、どうなさいます?」

 ケンウッドは我に帰った。ゴーンを振り返ると、副長官は画像の中の議員よりずっと美人だ。当ドームの女性ドーマー達も美人揃いだ。昔の思い出に浸る必要も暇もない。

「おもてなしは、不要だよ。」
「でも・・・」
「連邦政府の広報として、彼女自身の選挙活動の一つとして、宣伝材料を集めに来るだけだ。ただ、見られて不味いものは隠さないとね。男性同士のカップルは宇宙でも珍しくないが、これ見よがしにいちゃつかれては困る。女性誕生の為の研究機関なのだから、コロニー人も地球人も一丸となって努力しているところを見せないと・・・」
「それでしたら、地球人側は問題ありませんわ。」

 ゴーンが苦笑いした。

「執政官達、特にレインのファンクラブに自重してもらわないと・・・」