2018年8月30日木曜日

4X’s 2 4 - 3

 ソフィア・ケプラー議員は秘書ヴァレリア・サントスを振り返った。

「地球はお昼だそうよ、ヴァレリア。」
「月を出る前に夜食を頂いたばかりですけどね。」

 彼女達が笑ったので、ケンウッドとゴーンも笑い、少し和やかな雰囲気になった。ケンウッドが微笑みを残したまま提案した。

「では、見学を優先しましょう。まず、出産管理区を通ります。大きな施設ですから、歩き疲れたら仰って下さい。輸送班のエアスレーで移動できますから。」

 初めて地球に降りて来た客人は殆どがエアスレーを所望する。重力で体が重たくなるからだ。ケプラー議員は宇宙のファッション雑誌に取り上げられる鍛え上げられた肉体の持ち主で、体力に自信があるのだろう、歩いてみます、と言った。
 出産管理区のその日の責任者は副区長のシンディ・ランバート博士だった。しかし彼女の業務に支障が出てはいけないと言う、来客ではなく身内への配慮から、待機していたアイダ・サヤカ区長が応対した。ランバートが接客を苦手とすることを知っているケンウッドとゴーンはその気持ちに感謝した。来客の見学の案内に慣れているアイダは、出資者様の見学の時とは違って簡単に、素人にも分かりやすく説明しながら出産に備える地球人の女性達をガラス壁越しに見せた。順調に行っている場所だけを見せたのだ。これが出資者様相手だと、そうは行かない。彼女は遠慮なく問題点を挙げ、その解決の為の予算を見積もって見せ、何としても寄付をもぎ取ろうと努力するのだ。しかし連邦の議員はお金をくれるでもなく、問題解決の為に動いてくれるのも期待出来ない。だからアイダは施設の良いところだけを見せた。議員の見学の様子は秘書が撮影している。後日メディアに公開されるだろう。宇宙連邦の住民に、地球人類復活プロジェクトが無駄でないことを見せるのだ。
 ケンウッドはケプラーとサントスはどこで知り合ったのだろうと考えていた。彼が最後に出会った時、ケプラーはジャーナリストを目指す学生で、サントスは商社に勤めるビジネスウーマンだった。ケプラーはともかく、サントスは政治に興味がなかった筈だが?
 新生児の保育室でケプラーは、昔の彼女を知っているケンウッドを驚かせた。赤ん坊に興味を示して、抱っこしてみたいと言い出したのだ。アイダは、それならもう一度消毒を受けてから、ガラス壁の向こうへ行きますか? と尋ね、議員は頷いた。ゴーンも一緒に行くと言い出し、ケンウッドとサントスが通路に取り残された。