2018年8月15日水曜日

4X’s 2 1 - 3

 ポール・レイン・ドーマーは端末をポケットに仕舞った。大変楽しい気分になっていた。彼の愛しい部屋兄弟で恋人のダリル・セイヤーズ・ドーマーの居場所を遂に発見したのだ。驚いたことに月に一回は訪問するタンブルウィード市のすぐ近くの郡部にある山奥だった。
 ロシア系ドーマーのアレクサンドル・キエフ・ドーマーが「空白地帯」と呼ばれる住民登録がほとんどない山地の衛星データを解析していたら、奇妙な形の岩が写っていた。キエフはそのデータに関心を示さずに放置したのだが、偶然北米南部班第5チームのリーダー、ジョージ・ルーカス・ドーマーがその画像を目にした。大昔の映画監督の巨匠と偶然同じ名前をもらった、綽名も「監督」のルーカスが、岩に違和感を覚え、映像を拡大して見たのだ。するとそれは家屋の屋根と思われたのだ。ルーカスは手柄を独り占めするつもりはなかったのだが、キエフのことは個人的に好まなかったので、分析官には何も言わずにその岩の周辺の映像提供だけを求めた。キエフは上司のすることに意見を述べない。同僚には煩く文句を言うのだが、リーダー達に敬意を表さない代わりに反抗もしない。黙ってルーカスの目的を訊かずに映像を提出した。
 ルーカスは趣味と実益を兼ねた得意の映像処理技術を駆使して岩に見えた家屋周辺の画像を分析した。すると前庭と見えた広場は耕地で、家屋には納屋も付いており、車と小さなトラクターがあった。裏手に沢があり、飲料水の補給も十分のようだ。
 だが、その場所に住人登録はなかった。
 ルーカスはそっとチーフ・レインに報告した。彼もレインが18年間探している男を知っていた。子供の頃は可愛がってくれた大好きなお兄さんだったのだ。レインは、彼の報告に驚き、用心深く注意を与えた。

「クラウスを呼んで相談しよう。他の局員にはまだ何も言うな。確信が持てる迄、俺たちだけの情報にするのだ。確信が持てたら、局長のご指示を仰ぐ。仲間に告げるのは、それからだ。」

 レイン、ルーカス、そして第1チーム・リーダー、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーの3名だけでその岩の様な住居の住民を調査した。すると驚くべき情報がさらに出てきたのだ。
 タンブルウィードの街に、時々緑色に輝く黒髪の少年が現れて、住民の子供たちと遊んでいると言う。少年は自分で車を運転してやって来た。どこかで拾って修繕した様なポンコツの小型車だ。同じ年頃の少年達とボール遊びをしたり、遊技場で遊んで行く。
 ごく稀だが、親が一緒の時があると言う。男親1人だけで、親はいつも帽子を目深にかぶり、顔を見せたがらないが、金髪の白人で中背、話をすれば温かい言葉遣いで親切だと評判が良かった。レインは接触テレパスで住人が語りたがらなかったその男の名前を知った。

 ダリル・セイヤーズ

 正に、彼が探し続けていた男の名前だった。
 もし、その人物が本人だったら・・・レインは心の中で呟いた。

 一緒に住んでいる少年は何者なんだ、ダリル?