2018年8月17日金曜日

4X’s 2 1 - 9

 ポール・レイン・ドーマーが長官執務室から退出すると、ケンウッド長官はハイネ局長に向き直った。

「セイヤーズの子供はクローンと考えて間違いないだろうね、ハイネ?」
「そう思います。」
「その辺のチンケなメーカーの技術で子供を作るとは思えない。遺伝子管理局の局員だったのだから、クローンの健康状態が製造技術で左右される事は理解している筈だ。子供が健康だとしたら、誰に作らせたと思う?」

 ハイネが少し興味深そうに長官の目を覗き込んだ。

「長官は、セイヤーズがあの男と接触したとお考えですか?」
「近くにいるのだから、出会っていても不思議はない。セイヤーズは局員時代に既にあの男の居場所を掴んでいたのではないかね?」
「彼は西ユーラシアに飛ばされていましたが?」
「それより前さ。確認する前に飛ばされたのだろう。或いは、ツナギをつける方法を知っていたのかも知れない。」

 ケンウッドは席を立って、休憩スペースでお茶を淹れた。秘書にも声をかけてみたが、チャンもスメアも今は要りませんと言う応えだった。ハイネは素直に受け取り、熱いお茶が冷めるのを待ってカップを持ったまま長官を見た。

「セイヤーズの子供の元細胞は誰のものとお考えですか?」

 ケンウッドは自身のカップの中を眺めた。綺麗な赤い液体から白い湯気が立っていた。

「葉緑体毛髪を持っているのだとしたら・・・」

 逃亡する直前迄、セイヤーズはレインと共にレインの部屋にいたのだ。そこで彼等が何をしていたのか、彼等の仲の良さを知っていれば容易く想像出来た。

「セイヤーズはやはりハードケースに生細胞を入れて持ち出したのだ。恐らく・・・ポール・レインの細胞をね。」

 ハイネは真面目に考え込んだ。

「では、生殖細胞からクローンを作ったことになりますね。単体クローンの製造法では作れませんから、女性の卵子の殻が必要です。」
「あの男は女性を連れているのか・・・」

 ケンウッドはハイネを見た。

「ハイネ、セイヤーズを確保する時は、子供も保護するのだろう?」
「可能であれば。」
「収容所ではなく、ここへ連れて来てくれないか? あの男のクローンなのか、調べてみる必要がある。」

 ハイネは軽く頭を下げて、了承した事を伝えた。