2018年8月15日水曜日

4X’s 2 1 - 1

 ポール・レイン・ドーマーは端末電話の向こうで鳴っている呼び出し音に苛立っていた。相手が直ぐに出てくれないと言うことは、留守と言うことだ。

 だが、留守って、何処にいるって言うんだ? 彼は絶対そこにいる筈じゃないか!

 突然呼び出し音が止まって、レインはビクッとした。心の中の声が相手に聞こえたのかと思った。しかし、聞こえてきたのは、彼が耳にしたくない男の声だった。

「遺伝子管理局局長執務室、第1秘書ネピアだ。局長は本日はお休みだ。」

 レインは局長の仕事用番号に掛けたことを後悔した。電話は局長執務室の執務机にあるコンピュータに繋がり、出るべき人がいないので秘書が取ったのだ。

「局長はお休みなのですか?!」

 ちょっとショックだった。否、ちょっとどころか大いにショックだ。重要案件で電話したのだから、相手が電話の向こうにいてくれなければ困る。

 どうして局長は俺の大きな転機の時に限ってお仕事を休まれるのだ?

 それは20年前も、18年前も、そして・・・数える間も無く、ネピア・ドーマーが告げた。

「局長にも個人的なお時間は必要だ。しかし、伝言はお預かりしている。君から何か連絡があれば、ケンウッド長官に連絡しなさい、と言う指示だ。」

 レインはホッとした。そして局長が彼の報告を重要だと考えてくれていることに感謝した。レインが何を追っているのか、何を重視しているのか理解してくれている。
 レインの感激に気がつかないネピア・ドーマーが呟いた。

「何故君の報告だけ、そんなに重要視なさるのか、私は理解出来ないが・・・」

 レインは秘書の機嫌を取るつもりはなかった。時間が惜しい。相手に一言、「了解しました」と言って、電話を切った。
 一旦端末を持つ手を下げて、周囲を見回した。遺伝子管理局北米南部班タンブルウィード支局、通称中西部支局の廊下には誰もいない。各部屋のドアも固く閉じられている。レインは一呼吸置いてから、再び端末を持ち上げ、南北アメリカ大陸・ドームの最高責任者の個人番号に電話を掛けた。
 3回の呼び出し音の後で、直ぐにニコラス・ケンウッド長官の声が聞こえてきた。

「ケンウッドだ。」
「遺伝子管理局のレインです。」

 ハイネ局長とケンウッド長官の間には既に何らかの打ち合わせがあったのだろう。長官は直ぐに彼が直通電話を掛けて来たことに意味を感じ取った。

「レイン・ドーマー? 君の任地で何か大きな変化があったのかね?」
「ええ・・・」

 レインは声を潜めて囁いた。

「彼を見つけました。」