2018年8月19日日曜日

4X’s 2 2 - 5

 ジョン・スコットフィールド警部補は40台半ばの頭髪の薄い男だった。美貌のレインが坊主頭なので親近感を抱いたのか、愛想の良い笑を浮かべて出迎えた。レインは無愛想で通っているので、警察署でも笑わない遺伝子管理局員として知られていた。だから無愛想に握手に応じてやった。警部補の思考は読まなかった。余計な情報を仕入れてしまうと、後で一緒に仕事をやり辛くなるからだ。
 スコットフィールドは遺伝子管理局の協力で死亡者の身元が全員判明したと笑顔で言った。つまり、クローンはいなかったと言うことだ。

「死者の中に女はいませんでしたか?」
「1人いました。」

 警部補は首を振ってエレベーターを指した。

「地下の安置室に全員の遺体を置いています。見ますか?」

 ドーマーはあまり死者と接したことがない。しかし遺伝子管理局は身元不明の死者の遺伝子鑑定を行うのも業務なので、経験は多かった。但し、どの局員も回数が多くてもいつまで経っても慣れない仕事だった。レインは女性を確認したかったので、見てみることにした。

「貴方の部下の鑑定で、マルセル・ベーリングと確認されました。銃撃戦に巻き込まれて銃弾を2発胸に食らって、致命傷となったと思われます。」
「死亡者は全部で何名です?」
「17名・・・お陰で検死に時間がかかりそうで、検屍官が悔やんでいます。」
「安置室も満杯ってことですね。」
「そうです。検死が終わった遺体から順番に葬儀屋に引き渡しているところですよ。」

 と言うことは、ハイネ局長が明日死者のリストを承認する迄メーカー達の遺体は葬儀屋が保管する訳だ。レインが17名の内訳を尋ねると、スコットフィールドは肩をすくめた。

「どっちがベーリングでどっちがラムゼイか、名札が付いてりゃ良いんですがね。」

 死体安置室はエアコンが効いており、脱臭装置も問題なく作動していた。それでもレインはマスクを出して装着した。スコットフィールドも規則に従ってマスクをしたが、普段はしないのかも知れない。死んだ男達はいずれも銃撃を受けていた。頭部の損傷が激しい者もあったが、レインはなんとか目を逸らさずに見た。
 トリスタン・ベーリングは47歳の男で、生前はさぞやハンサムだったろうと思えたが、残念なことに右目を撃ち抜かれていた。妻の遺体と並んで保管棚に入れられたことだけが彼等にとって慰めになっただろうか。

「ラムゼイと思える人物は見当たらないのですか?」
「いませんね。どの遺体も身元鑑定が出来ましたが、50年近く高品質のクローンを作ってきたと思える年齢の男はいません。それに、これはアタシの勘ですが、ラムゼイ側の遺体は皆兵隊だと思うんです。幹部はいない。だから、ベーリングの攻撃を受けた時、まともな指揮官がいなかった。」

 レインはスコットフィールド警部補をマジマジと見た。

「警部補は、兵隊どもが自分達の判断でベーリングの女を拉致したとお考えですか?」
「そうじゃありません。指揮官は別の場所にいて、指図していたのです。拐って来た女をクリニックに一晩置いて、それから本当の隠れ家に連れて行くつもりだったのでしょう。」
「本当の隠れ家?」
「そいつが何処にあるのか、まだ掴んでいませんが・・・」

 警部補は少し微笑んで見せた。

「少なくとも、クローン製造工場は一つ潰せました。クリニックの地下にあったんです。」