2018年8月24日金曜日

4X’s 2 3 - 3

「しかし、制作過程を記録している訳ですから、女の子を量産出来たでしょう? メーカーとして儲けたんじゃないですか?」
「それが、4Xは1人きりだ。あの娘1人だけ・・・」

 レインはまた局長を振り返った。

「局長、ベーリングは遺伝子組み替えの記録も残していないのではありませんか?」
「うん・・・どのファイルを見ても、女子誕生に繋がる記録がない。破棄したのか、或いは・・・」

 ハイネ局長が複雑な表情をした。

「女子の誕生は全くの偶然で、記録し損ねたのかも知れない。」
「そんなことってあります?」

 ハイデッカーが呆れた声を出した。

「科学者は自分の研究過程を記録するのが常識でしょう?」
「メーカーに常識を求めるなよ、ジェラルド。」

 レインが苦笑しながら言った。

「記録がないってことは、女の子はあの4X1人だけだ。だから、ベーリングは命懸けで娘を取り返そうとしたのだろう。」

 ハイデッカーは局長が一瞬何か言いたそうにレインを見たのに気が付いた。しかしハイネは結局レインの言葉にコメントせずに憶測だけを言った。

「その女の子は銃撃戦から逃れて隠れている可能性が大きいのだな?」
「死亡者の中にいませんし、逃げた連中が連れて行った様子もありません。そうだな、ジェラルド?」
「ええ・・・兵隊どもは砂漠に散らばりましたが、警察が来るまでに我々が見張っていた限り、女性の姿はありませんでした。」
「すると、まだ建物の中にいるのか?」

 ハイデッカーは自身の端末でクーガー・メンタル・クリニックの構造図を探した。

「違反行為を生業としていた連中ですから、建物には隠し部屋がいくつかありました。少女はそれらの部屋を移動して上手く隠れているのでしょう。食糧も残っていましたから。」
「だが、籠城出来る時間はそんなに長くないぞ。」

 レインはドームの外の雑菌だらけの空気を考えた。

「食べ物の鮮度はそんなに長く保たないだろう。水もポンプが止まっていたから、一週間もすれば涸れる。女の足であの砂漠を街まで歩けやしない。」

 ハイネ局長はちょと考え込んだ。レインもハイデッカーも暫くはドームから出せない。抗原注射接種の間隔を開けなければならないからだ。それに一箇所の支局に一つのチームが固定して出張るのも先例がない。第4チームは次の出動でフロリダ方面へ行く予定になっていた。
 局員には本来の業務がある。一般住民の婚姻や養子縁組や子孫登録などに関する事務処理や面接だ。メーカーの捜査はその合間にする仕事で、詳細を掴めていない少女の捜索に貴重な部下の時間を使わせたくない、と言うのが局長の本音だった。
 ふと、彼は何かを思いついた。部下を見て、彼はハイデッカーに声を掛けた。

「今日は休暇なのに呼び出してすまなかった。今夜はここ迄にしよう。ゆっくり休みなさい。」

 え? もう終わり? と言いたげな顔で、ハイデッカーは直属の上司レインを振り返った。レインもいきなりの終了宣言にちょっと驚いて局長を見た。ハイネが微かに首を振って何かの合図を彼に送った様に見えた。レインは、局長が言いたいことを悟った。チーム・リーダーに向き直り、彼は言った。

「ジェラルド、今夜はご苦労だった。一緒に夕食でもと思っていたのだが、別件で局長にお聞きしたいことを思い出したので、先に帰ってくれ。この件で何か進展があれば、君が別の地方にいても必ず連絡する。君が始まりを目撃した事件だからな。」

 ハイデッカーも馬鹿ではない。上司達はこれからもっと踏み込んだ話し合いをするのだな、と悟った。余計な口を挟まない、上位の者の話し合いに首を突っ込まない、それがドーマー達の暗黙のルールだった。彼が立ち上がると、畏れ多くも局長も立ち上がり、お休みの握手をしてくれた。