2018年8月26日日曜日

4X’s 2 3 - 8

 笑ってしまうと、ちょっと大胆になった。ケンウッドはテーブルに体を乗り出して、小声で2人に言った。

「一両日中に、宇宙連邦議会の議員がここを訪問する予定なんだ。」
「議員? 何しに?」
「女性ですか?」
「厚生福祉委員会の役員をしているソフィア・ケプラー議員だ。」
「知らんなぁ・・・」
「君は政治に興味がないからなぁ。」
「美人ですか?」
「ハイネ、君はそっち方面しか興味がないのかね?」
「ドーマーが宇宙のことを質問したら叱られるじゃないですか。」
「そりゃそうだが・・・」
「ですから、議員個人のことだけ訊いています。」
「美人かどうかわからんが・・・」

 ケンウッドは端末に議員の画像を出してハイネに見せた。ヤマザキが横から覗き込んで、「ああ」と呟いた。

「連邦議会の予算案の攻防戦で、3日前に財務委員会相手に演説をまくし立てていたオバさんだな。」
「オバさんって・・・」

 ケンウッドは哀しい気分になった。

「私等と同世代だよ、ケンタロウ。」
「知ってるよ。僕等は立派なオッサンだしな。」
「私は爺いです。」

 ケンウッドとヤマザキは彼等より10歳は若く見える100歳の爺さんを見た。

「誰も君を爺さんとは思わないよ、ハイネ。」
「でもケンタロウは言いますよ。」
「ケンタロウは無視してよろしい。」

 ヤマザキがこほんと咳払いした。

「話を元に戻して、その議員は何しに来るんだ?」
「ただの見学だよ。地球人類復活委員会はちゃんと仕事してます、と言うのを見にくるだけだ。それをマスコミが取材して、議員はちゃんと仕事してます、と宇宙の住民に見せるのさ。」
「それだけ?」
「うん、それだけだ。」
「おもてなしとか?」
「ない。ドーマーとの触れ合いもない。出産管理区とクローン製造部を見学して、中央研究所をちょっと見て、それで終わりだ。」
「するとお泊まりもなしか?」
「ない。」

 ケンウッドは議員が余計なことを思い出さねば良いが、と思った。