2018年8月19日日曜日

4X’s 2 2 - 1

 ハイデッカーから次の連絡が入ったのは、真夜中だった。
 レインは自宅アパートの寝室で浅い眠りに就いていた。抗原注射の効力切れ休暇だったので、昼寝をして、夜は眠れない、そんな状況だった。だから、端末が部下からの電話を告げるメロディを奏でた時、すぐに目が覚めた。
 ベッドの上に起き上がって、通話ボタンを押した。

「レインだ。」
「ハイデッカーです。事態がど偉いことになりました。」

 ハイデッカーが街の若者の口調を真似て喋ったが、レインは咎めなかった。

「ベーリングが相手のアジトを襲ったのか?」
「はい、クーガー・メンタル・クリニックです。」
「なにっ!」

 レインはベッドから出た。目的もなく室内を歩き始めた。

「そこは、精神障害者用療養施設じゃなかったか? 砂漠の中の・・・」

 彼はハッと気が付いた。街から離れた施設はメーカーの研究施設である可能性が大きい。 クーガー・メンタル・クリニックはタンブルウィードでは名の通った精神療養所で、富裕層の客が多かった為に、警察は手を出しかねていた。警察が怪しいと思えば遺伝子管理局も探りを入れただろうが、警察がノーマークだったので、レインも気になると思いつつ、これ迄半分無視していたのだ。
 
 やはりメーカーの隠れ蓑だったか・・・

 失敗だ、とレインは悟った。隠れ蓑だとすれば、一般の療養者もいる訳で、そこへ別のメーカーが襲撃すれば一般人に被害が及ぶ。

「ベーリングのアジトを襲った連中が、クーガー・メンタル・クリニックに逃げ込んだと言うことだな?」
「そうです。かなり派手な銃撃戦になっています。」
「君は今どこにいる?」
「クリニックを見下ろせる丘の上にいます。入院の一般人に危険が及んでいると思われたので、警察に連絡を入れました。」
「それで良い。君と君の部下達はちゃんと距離をとっているんだな?」
「その点は大丈夫です。部下には、入院患者が外に出て救助を求める迄手を出すな、と言ってあります。」
「うん。」

 レインは時計を見た。午前1時になろうとしていた。

「そこからでは勝敗は判断出来ないだろう?」
「はい、自動小銃やショットガンの様な音が散発的に聞こえてきます。ベーリング達はかなり施設の奥へ入り込んだ様子です。」
「そのままそこにいても拉致が開かないだろう。警察が到着したら、君達は一旦引きあげろ。夜が明けてから、警察に事態の結末を問い合わせるのだ。」
「了解しました。」

 通話を終えたレインは、さらに数分ばかり歩き回っていたが、やがて意味のない行動をしていると気がつき、ベッドに戻った。上司への報告は結末を聞いてからだ。