2018年10月12日金曜日

中央研究所  2 1 - 10

「こんな再会の仕方はしたくなかったなぁ・・・」

 東アジア・ドームで診療していたところをアメリカに呼び戻されたヘンリー・パーシバルは、観察棟の観察モニター室でセイヤーズの部屋を見ながら呟いた。ケンウッドの緊急要請を受けて、東アジア・ドームが専用ジェットを仕立ててくれた。そしてパーシバルは夜中にアメリカに戻ってきた。
 ダリル・セイヤーズ・ドーマーはラナ・ゴーン副長官から記憶削除の手術を受ける説明を受けているところだった。初めのうちは記憶を消されることに抵抗していたが、自身の特異な遺伝子の特徴に宇宙軍が興味を抱く可能性があること、危険人物だと判定されてしまえば、地球人類復活委員会でも彼を守れないこと、クローンの息子にも同じ危険がつきまとうこと等を聞かされ、考え込んだ。
 消される記憶が1日分だけ、それもこの日だけだ、と言われ、彼は決心した。

「出来るだろう?」

 モニターを見ながらケンウッドがパーシバルに念を押した。

「君にしか託せないんだ。他の医者は腕はともかく、機密保持に関して信頼を置けない。セイヤーズが今朝やらかしたことは、ここにいる我々だけの秘密にしておきたい。」
「・・・ああ・・・」

 パーシバルは勿論記憶削除の手術を何度か経験していた。薬で抑えられない神経の興奮を鎮める為に記憶を消す治療法だ。消したい記憶に印が付いている筈がなく、形で存在する訳でもない。記憶を保つ神経細胞に電気振動を与えて白紙に戻してしまうだけだ。
 画面の中で、セイヤーズはゴーンから薬のカップを受け取り、ゆっくりと飲み下した。麻酔だ。眠って新しい記憶が増えるのを防ぐ。
 薬剤の効果はすぐに現れ、彼は腰掛けていたベッドの上にゴロリと転がった。ゴーンが呼びかけても反応しなくなり、やがて保安課が入室して彼をストレッチャーに載せた。

「じゃぁ、医療区に行くか・・・」

 ケンウッドとパーシバルは観察棟を出た。