2018年10月3日水曜日

捕獲作戦  2 2 - 5

 レインは夜中になる前に山の石造りの家に辿り着いた。家の前にセイヤーズの古い車が駐めてあった。家の中は真っ暗で静かだったが、レインはセイヤーズがそこに居ると確信した。どんなに土地勘があっても夜中に山道を歩いて逃げたりしないだろう。

「俺が声を掛けると、セイヤーズは自分でドアを開けました。俺は、彼を逃したくなかったので、麻痺光線を使用しました。説得する心の余裕はありませんでした。セイヤーズには息子がいますから、そっちも警戒しなければなりません。」

 レインは局長から視線を外した。この先は事実を言いたくなかった。感情の趣くままに、元恋人に暴行を働いたなど、このドームの中で純粋培養された人に告白したくなかった。

「俺は家に入り、倒れたセイヤーズに、彼が危険値S1の遺伝子を持っていることを教えてやりました。何故彼がドームに帰らなければならないか、言い聞かせたのです。それから・・・麻酔を打って眠らせました。
 朝になるのを待ってから、ワグナーをヘリで来させ、セイヤーズを彼に引き渡しました。
 衛星データ分析官が、山中で2人の人影を捕捉したので、ワグナーから遅れて来た部下達を連れて山狩りをしました。」

 レインはまたしても言いたくない箇所に行き着いた。今回の任務の最大の失敗だ。しかし、これはセイヤーズに働いた暴行と異なり、報告する義務がある。

「クローンの少年は実弾の銃を所持しており、抵抗しました。俺が投降を呼びかけても聞こうともせず、数分ほど撃ち合い、部下の誰かが撃った光線が彼の背中に命中しました。その場所が運悪く、崖の縁で・・・」

 思い出すのも嫌だったが、レインはなんとか局長に打ち明けた。

「少年は崖下の川に転落しました。助けようにも川へ降りる足場がなく、水は泥色に濁っていて、少年に姿は直ぐに見えなくなってしまいました。」

 頑張ったが、最後の声は自身でも情けなく思える程弱々しかった。ハイネがカップを机の上に置いた。

「少女は確認出来なかったのか?」
「衛星で捕捉した時は少年と行動を共にしていた筈です。銃撃戦の時も近くに居たと思われますが、姿は見せませんでした。少年を見失った後、周辺を捜索しましたが見つかりませんでした。キエフ・ドーマーにもう一度探させたのですが、物陰に隠れたようで、捕捉出来ませんでした。」

 ハイネが珍しく溜め息をついた。部下の不甲斐なさに溜め息をついたのではなく、地球の未来の希望が手に入らなかった事実を憂いたのだ。だが、実際のところ4Xが地球に何をもたらす存在なのか、まだ誰にも何もわかっていないのだ。だから彼はレインを責めるつもりなど毛頭なかった。
 レインが「以上です」と締めくくったので、彼は頷いた。

「わかった。兎に角君がセイヤーズを確保したことは事実だ。中央研究所は大興奮している。重要なことを彼等は忘れているようだが。」

 彼はレインに優しい声を掛けた。

「ご苦労だった。遅くなったが、今夜はしっかり眠れ。明日は効力切れ休暇だろう? 好きなだけ休みなさい。」