レインは前日の朝、西へ向かう機内でタンブルウィード支局に電話を掛けた。ダリル・セイヤーズに伝言を依頼したのだ。夕方ボーデンホテルで出会って今後のことを話し合おうと。電話を受けた秘書のブリトニー・ピアーズ嬢は、養子縁組申請者の面談だと思って気軽に引き受けた。レインはホテルのロビーでセイヤーズと会うつもりだった。局員が面談希望者と最初に会うのはホテルのロビーと決まっていたからだ。
ところが、西海岸での用事を済ませて部下達と共に中西部支局に到着したレインに、ブリトニー嬢が質問して来た。
「面会をお部屋でなさるのは異例ではありませんか?」
レインは驚いた。そんな指図を出した覚えなかった。誰がそんな指図を出したのかと聞き返すと、彼女は困惑して答えた。
「支局長が、貴方が場所を変更されたので面会希望者に連絡するようにと仰ったのです。私、まだセイヤーズさんに電話をしていなかったので、面会はお部屋でしますと伝えたら、セイヤーズさんも驚かれました。でもフロントで確かめれば良いことだから、と仰って・・・」
レインがここ迄語ると、ハイネ局長が初めて表情を変えた。訝しげに眉を潜めて呟いた。
「何故ハリスが勝手に面会場所を変えたのだ?」
しかしレインにその答えを言わせずに、「続けなさい」と促した。それでレインは部下達を支局に待機させたまま、1人でボーデンホテルに向かった、と語った。
フロントで予約したチームの人数分の部屋が取れていることを確認してから、自分の部屋のキーを受け取ろうとすると、フロントクラークがキーはハリス支局長に渡したと言った。クラークは遺伝子管理局の業務に使うのだから支局長がチーフが常に利用する部屋を知っているのは当然と思っていた。勿論当然なのだが、支局長が無断で先に部屋に入って良い訳がない。
レインは胸騒ぎがしたので、同じフロアの部屋が一つ空いていることを知ると、そこも借りた。そして部屋へ行って、ドアの向こうの音に注意を集中させた。
支局に居るワグナー・ドーマーに連絡を入れ、部下達に夕食を摂らせている間に、セイヤーズが駐車場に現れた。窓の外を見ながら食事をしていたレインは直ぐに彼の金髪に気が付いた。日が暮れていたが、歩き方も警戒の仕方もダリル・セイヤーズその人だった。
セイヤーズが建物に入って彼の視界から消え、待機している3階に上がって来るまで、気が気ではなかった。
上がって来たエレベーターから誰も降りなかった時は、逃げられたかと思ったが、セイヤーズは階段を登ってやって来た。