2018年10月6日土曜日

中央研究所  2 1 - 3

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーはクローン観察棟の一室でドーム帰還後最初の夜を過ごした。能天気な性格が幸いして短時間ではあったがぐっすり眠って、翌朝は7時前に目覚めた。着替えがなかったので洗面スペースで洗顔していると、保安課の制服を着たドーマーが入って来た。朝の挨拶をした保安課のドーマーはセイヤーズより年下で、顔馴染みでなかった。ドーマー達は部屋兄弟でない限り、成人して働き始める迄自身より年少のドーマーと知り合う機会が殆どない。どう言う訳だか、地球人類復活委員会は子供のドーマー達をグループ分けして互いの交流を持たせない。訓練所に入る年齢になって「初めまして」となるのだ。だから僅か20歳で西ユーラシア・ドームに転属になり、その後脱走したセイヤーズは、生まれ故郷でありながら年少のアメリカ・ドームのドーマー達と顔馴染みが少なかった。どちらかと言えば年長者の方が知り合いが多かったのだ。
 保安課は任務に就いている時間帯は私語をしない。挨拶の後は、朝食に連れて行くと言ったきり、黙ってセイヤーズが部屋を出るのを待っていた。
 寝間着のままで通路に出ると、そこに真っ白な髪の長身の男性が立っていた。ダークスーツを着ていたので遺伝子管理局の人間だとセイヤーズはすぐわかったが、誰だったか記憶になかった。同じ年代か少し上に見えるが・・・? 
 おはよう、と相手が声を掛けてきたので、彼も、おはようございます、と返事した。

「で・・・何方ですか?」

 保安課員が目を剥いた。このお方を存じ上げないのか? と無言で抗議した。白い髪の男性は怒りもせず、少し笑った。

「遺伝子管理局長のローガン・ハイネだ。気分はどうだ?」

 セイヤーズは最後迄聞いていなかった。

「ローガン・ハイネ! ハイネと仰いましたか?!」

 いきなり彼は相手の手を取った。

「思い出しました! 養育棟の中級クラスの時とか訓練所で時々参観に来られていましたね?」

 ハイネはただ微笑んでいるだけだ。セイヤーズは失礼な振る舞いをしたことに気が付いて、手を引っ込めた。

「すみません。子供の頃に憧れた人と出会えて興奮しました。」
「相変わらず、能天気だな。暫くは検査漬けになるだろうから、今のまま気を抜いて過ごしなさい。」

  ハイネは保安課員に頷いた。保安課員がセイヤーズに声を掛けた。

「食堂へ案内する。観察棟の収容者は出産管理区の食堂を利用する。女性達に失礼の無いように注意しろよ。」