2018年10月28日日曜日

JJのメッセージ 2 1 - 8

 お昼前の打ち合わせ会に、ローガン・ハイネ遺伝子管理局長が来たので、ケンウッドはポーレット・ゴダートと言う女性の子供が養子に出される勧告を受けている理由を尋ねて見た。しかし、ハイネは知らなかった。遺伝子管理局は子供がどこで育てられるかは把握しているが、何故そこなのか、その理由までは関知しない。

「出産管理区に訊いてみましょうか?」

 すぐに端末を出そうとしたので、ケンウッドは止めた。

「私の好奇心だ。私が訊いてみるよ。」

 ラナ・ゴーン副長官も興味を持って長官を見た。

「その女性は、同じ収容者の女性を救助したのですね?」
「うん。だから今日の朝食会に彼女も招待されていたが、1人だけ浮かぬ表情だったので気になったのさ。」

 ケンウッドがかけたのは、区長のアイダ博士ではなく、副区長のシンディ・ランバート博士だった。そもそも朝食会にセイヤーズ達ドーマーの参加の許可を申請して来たのがランバートだったのだ。
 ケンウッドは多忙な出産管理区の邪魔をしないように、ランバートが電話口に出ると、すぐにゴダートの子供の処遇について質問した。
 毎日誕生する子供は多い。ランバートはすぐには思い出せなかったが、アメリア・ドッティの恩人の女性だと言うと、ああ、と呟いた。

「お気の毒なことですわ。」

 とランバートが溜め息をついた。

「お産の次の日に、子供の父親が事故で亡くなったのです。」
「父親が亡くなった?」
「はい。それに彼女と夫は異人種結婚で、それ自体は問題ない筈なのですが、双方の親が猛反対していて、ドームを退所した後の母親と子供への援助が期待出来ません。担当支局の支局長がゴダートの両親と夫の両親双方に援助の打診をしたのですが、どちらも断ったのです。」
「酷い話だ!」

 ケンウッドは驚いた。

「親達は経済的に問題を抱えているのかね?」
「ゴダートの親は裕福です。でも白人の男性を父親に持つ孫は要らないと・・・」
「この世紀に?」
「ええ、この世紀にです!」

 ランバートも喋りながら腹が立ったようだ。

「夫の親は?」
「こちらは父親だけの家庭で、つまり、夫は取り替え子の養子だったのですが、黒人の嫁と孫の世話まで余裕がないと・・・」
「ゴダートは無職か?」
「妊娠して退職してしまったのです。再就職しても、子供の世話をする人がいませんから、働けないでしょう。」
「それで、養子勧告か・・・」
「そう言うことです。」

 きっと出産管理区では、この手の話は珍しくないのだろう。だからドーム幹部に報告が上がってこない。全て支局レベルで片付けてしまうのだ。
 ケンウッドはランバートに礼を言って、通話を終えた。