2018年10月15日月曜日

中央研究所  2 2 - 3

 アメリカ・ドームは暫く静かだった。平和と言えるかも知れない。出産管理区では全ての業務がスムーズに進み、毎日元気な赤ん坊が誕生し、母親達が笑い、新しい妊婦がやって来て、女の子がそっと男の子と交換された。クローン製造部でも赤ん坊が誕生し、出産管理区に送られて行く。
 ドーム維持班は毎日煩雑な業務を順調にこなしていく。ドーマーの大半を占める出産管理区スタッフ達は赤ん坊と妊産婦の世話に明け暮れ、被服管理班は縫製と洗濯に精を出し、設備維持班はドーム施設のメンテナンスに忙しい。厨房班は日々の食事の準備にわき目も振らず、遺伝子管理局も地球人の生活の為の証明書発行や許可証認定に走り回る。
その他の部署も遊んでいる暇がない。
 そんな働き者のドーマー達に申し訳なく思いつつ、ケンウッドは停滞している研究に取り組んでいた。セイヤーズの子供を作る計画が中断しているのだ。
 1日分の記憶を削除されたダリル・セイヤーズ・ドーマーは目覚めたものの、起き上がれなかった。目を開いているが、何も見ていない。瞳孔は光に反応するので、ちゃんと機能しているのだ。耳も音は聞こえているが、脳が言葉を理解していない。
 セイヤーズの脳を壊してしまったか、とケンウッドは恐怖に襲われたが、ヤマザキも電話で様子を聞いて来たパーシバルも、大丈夫だ、と言い切った。

「セイヤーズの脳はゆっくり回復に向かっている。ダラダラしているだけさ。」
「僕の腕を信じてくれ。可愛いドーマーを傷つけるものか!」

 ハイネは何も言わない。執政官に任せているので、口出ししないのだ。ただ、ゴーン副長官が、レインに見舞いに来させよう、と言った時、彼は困った様子で言い訳した。

「レインは、川に落ちたセイヤーズの息子を探す為に、最短の休養期間を取っては外へ出かけて行きます。セイヤーズの現在の状態を彼は知りませんが、息子を見つける迄はセイヤーズに合わせる顔がないと思っているようです。」
「強制的に休ませることは出来ないのですか、局長。レインの健康状態まで心配しなければならないなんて・・・」

 ゴーンは溜め息をついた。すると、ハイネが一つの案を出した。

「アイダ博士が言ったのですが、セイヤーズを目覚めさせたいのであれば、レインの声を聞かせれば良いのでは、と。」

 ゴーンはハッとした表情で遺伝子管理局長を見た。ハイネが小さく頷いた。レインがセイヤーズに会えないと思いつめていても、セイヤーズはレインに会いたいのだ。