2018年10月1日月曜日

捕獲作戦  2 2 - 2

 バスの車内で局員達は通路に置かれたストレッチャーを見ないよう努力した。レインは禁じなかったが、それでもうっかり見たら怒られると言う感じがしたのだ。
 搭乗ウィングに到着すると、保安課のゴメス少佐が空港保安員と共に待ち構えて降り、誰よりも真っ先にストレッチャーを下ろした。そのままレインさえ振り返らずにドームゲートへ運んで行った。レインと局員達はバスから降りて、くたびれた体に鞭打って消毒を受け、出産管理区と医療区のスタッフ専用通路を歩いて遺伝子管理局本部へ向かった。本部は日常の業務をとっくに終えて、受付の職員が入り口のレセプションデスクの向こうで退屈そうに座っていた。北米南部班第一チームが入館すると、彼は「お帰りなさい」と言い、レインに局長執務室へ直行するようにと指示を告げた。
 レインは部下達を振り返った。

「今日は酷い1日だった。君達には情報を分けてやれなくてすまないと思っている。これは中央からの指示があったからだが、俺の身勝手もある。今夜は早く帰って、明日はしっかり休養してくれ。では、解散!」

 局員達はそれぞれ「お疲れ様」と挨拶し合い、受付で帰還チェックを行ってから各自思い思いの方角へ去って行った。夕食は機内で済ませているし、今夜は運動する気力も体力も残っていないだろう。
 レインは1人で本部の奥へ足を向けた。エレベーターに乗って最上階に上がった。局長執務室と内勤の大部屋、内務捜査班の個室、大会議室があるフロアだ。仕事熱心なドーマーも夜は休む。内勤の大部屋も内務捜査班の各部屋も施錠されていた。局長執務室だけが、ドアの青いライトが点灯して、中に人が居ることを示していた。
 レインはドアをノックして、自分で開けて中に入った。秘書を帰した後1人で残る局長は、部下の為にドアを開けてくれない。部下は幹部クラスなら局長の訪問者暗証番号をもらっているので勝手に入れと言う訳だ。
 果たしてハイネ局長は休憩スペースで自分でお茶を淹れているところだった。レインや部下達の報告書には既に目を通している。だから執務室にレインを呼んだのだ。レインは「失礼します」と断って会議机の自分の席に座った。局長がトレイを使わずに直接カップを両手に持って会議机のところへやって来た。湯気の立つカップを前に置いてもらって、レインは思わずホッと肩の力を抜いた。ローガン・ハイネは部下の失敗には怒らない。彼が怒るのは、誰かが自分の命を粗末に扱った結果惨めな結果を招いた時だ。
 レインは礼を言って、カップを手に取り、熱いお茶を一口ゴクリと飲んだ。ハイネは自分のカップを持って自身の執務机にもたれて立った。

「報告せよ。」

 彼の指示はそれだけだった。レインは何から話すべきか機内で考えていた。開口一番、彼は言った。

「4Xの所在の確認を出来ていません。セイヤーズは少女と彼自身の息子を逃したのです。」

 ハイネは何も言わずにレインを見ていた。無言が部下に与えるプレッシャーを十分承知している。仕方なく、レインは詳細を語った。