2018年10月21日日曜日

JJのメッセージ 2 1 - 3

 ケンウッドは急ぐ用事がないことを確認して、1人で観察棟へ足を向けた。クローン観察棟は遺伝子管理局の管轄だが、執政官は自由に出入り出来るし、収容者の管理は医療区が、セキュリティは保安課が受け持っている。収容者の健康に問題がなければ、中央研究所は収容者に自由に面会出来るし、連れ出すことも出来る。ダリル・セイヤーズ・ドーマーはリハビリ中で、健康に問題はなかった。女性達と接しても病気を移したり移される心配はない。
 ケンウッドは最初に保安課の詰所に顔を出し、休憩していたピーター・ゴールドスミスを呼び出した。セイヤーズ担当の保安課員で、アメリア・ドッティのお誘いを受けている1人だ。朝食会のことはまだ黙ったまま、ケンウッドは彼と共にセイヤーズの部屋に入った。セイヤーズはコンピューター室への立ち入りを禁じられてしまったので、図書館から運んでもらった紙の書籍を読んで退屈を紛らわせていた。
 ノックをして入室すると、セイヤーズは顔を上げ、それから慌ててベッドから降りた。礼儀正しく長官に挨拶をした。部屋が狭いので、面会者用の椅子一つしか置けない。収容者はベッドに座るしかなく、保安課員は立ったままだ。
 ケンウッドは迷ったが、立ったまま話すのも威圧的な感じがしたのでベッドの端に座った。ゴールドスミスに椅子を勧めると、保安課員は戸惑った。

「君にも話があるから、座って聞きなさい。」

と言われてやっと腰を下ろした。
 ケンウッドはアメリア・ドッティからの要請を2人に説明した。

「朝食会と言っても、君たちが普段やっている打ち合わせ会とは違う。ただ朝ごはんを食べながら世間話をするだけのお気楽なものだ。女性達はこの手の小さな食事会で友達との交流を持つのが好きなのだよ。だから、君たちも明日の朝、1時間ばかり彼女達に付き合ってやってくれないかね?」

 ピーター・ゴールドスミス・ドーマーは恩人と言われるほどのことはしていないと謙遜したが、彼が排水溝のバルブを閉めに行ったのでアメリア・ドッティを救助出来たのだ、とセイヤーズが讃えた。それに2人共に女性は嫌いでなかったので、結局ドッティからのお誘いを受諾した。
 それで、ケンウッドは中央研究所から歩いて来る間に考えた案を出してみた。

「ポール・レイン・ドーマーも参加させてくれないかな? ゴールドスミス・ドーマーはセイヤーズを監視する役目があるが、食事会で監視しながら食べたり喋ったりではつまらないだろう? レインと互いにフォローし合いながらセイヤーズを見張ってくれないか?」

 実を言うと、ケンウッドはレインを従姉妹に会わせてやりたかった。実の肉親ではないが、遺伝子的に繋がっているし、もしかすると長男のハロルド・フラネリーがドーマーになって次男のポールが外の世界で育てられたかも知れなかったのだ。それにもう一つ、ハロルドが大統領に就任した時、ケンウッドは挨拶に行ったのだが、接触テレパスを持つハロルドは取り替え子の事実を伝えた時、大して驚かなかった。同じ能力を持つ母親が出産でドームに来た時に真実を知って息子に伝わったのだろう。或いは父親の記憶が母親に読まれ、それを母親を介して息子が知った可能性もあった。ケンウッドの懸念は、その情報がフラネリー一族の他のメンバーに伝わっていないか、と言うものだ。
 凄腕のメーカー、ラムゼイの顧客である富豪達はドームの秘密に薄々勘付いている節がある。フラネリー家がその波に影響されている恐れはないか、レインに探らせたかった。
 ゴールドスミス・ドーマーは、美貌のレインが同席すると聞いて複雑な表情をした。ケンウッドは女性の関心がレインに行ってしまうことを心配しているのだと思った。

「レインは女性扱いが上手いらしいが、セイヤーズに夢中だろう?」

と言うと、セイヤーズが頬を赤く染めた。

「からかわないで下さい、長官。レインは人前では普通の男です。」

 そして彼は、自分でレインを誘いたい、と言った。それは端末で電話を掛けさせてくれと言っているのと変わらない。ゴールドスミスは彼が機械類に触らないよう見張っているので、ケンウッドの顔を見てお伺いを立てた。
 ケンウッドも保安課員の懸念を察したので、ちょっと考えて答えた。

「後でコンピューターに詳しい者を寄越すから、彼の監視の下で電話しなさい。」