2018年10月19日金曜日

JJのメッセージ 2 1 - 1

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは子供時代からユニークだったが、40歳になってもそれは変わらなかった。ローガン・ハイネが「ドーマーのハッキング記念日」と命名したあの日の出来事は全て彼の記憶から削除されてしまったのだが、人格は変わらない。体を動かせるようになると、直ぐに元気を取り戻し、低下した筋力を鍛え直す目的でリハビリに水泳を始めた。そして、プールが隣接する出産管理区の収容女性が水中で事故に遭った時、彼は監視係の保安課員と共に救助に駆けつけた。女性が無事に救出され、セイヤーズも保安課員も女性達からヒーロー扱いされたが、余計な口を利かずに医療区へ戻って来た。
 そのニュースを聞かされたケンウッドは鼻高々だった。

 このドームの子供達は素晴らしい!

 我が子が手柄を立てたような気分だった。
 秘書ジャクリーン・スメアが救出された女性のプロフィールを見て、少し驚いた。

「長官、その事故で危うく命を落としかけた女性は、アメリア・ドッティですわ! 海運王ドッティ財団総裁アルバート・ドッティの奥方で、現南北アメリカ大統領ハロルド・フラネリーの従妹になる人です。」
「ほう・・・」

 ケンウッドは運命論者ではなかったが、この巡り合わせには驚いた。現大統領ハロルド・フラネリーは元ドーマー、ポール・フラネリーの長男で葉緑体毛髪と接触テレパスの能力を持っている。ポール・フラネリーの次男も同じ髪の毛と能力を持って生まれ、現役のドーマーだ。つまり、ポール・レイン・ドーマーなのだ。レインの恋人のダリル・セイヤーズ・ドーマーが救出した女性は、レインの従妹になる訳だ。
 レインは実家がどんな家庭なのか全く知らない。従妹がセイヤーズと関わりを持ったことも想像すらしない。従姉妹の存在も知らないのだから。

「セイヤーズは出産管理区の女性達から英雄視されていますよ、きっと。」

 もう一人の秘書チャーリー・チャンが呑気に感想を言った。するとスメアが、ゴールドスミスもいますよ、と保安課員の名前を言った。

「2人ともルックスが良いから、大モテですね。」

 その時、秘書のコンピューターに電話が着信した。チャンが応答し、2、3やりとりしてから、ケンウッドに顔を向けた。

「長官、出産管理区のランバート博士からです。」

 ケンウッドは手で有難うと合図して、自分の机のコンピューターを通話モードにした。画面にシンディ・ランバートの顔が現れた。

「ヤァ、シンディ、どんな用件かな?」
「こんにちは、長官。用件は私ではなく、収容者なのですけど・・・」

 副区長のランバートは産科医として非常に優秀だが、職場の外では大人しい。あまり自分の意見を言う人ではない。今回も要望や意見ではなく、伝言係の役目を担ったようだ。

「収容者がドームに何か要求かね?」

 ランバートはちょっと躊躇ってから、おずおずと言った感じで切り出した。

「中央研究所は今朝のプールでの騒ぎをご存知ですよね?」
「うん、聞いたよ。女性達が無事で良かった。」
「2人のドーマーと、1人の収容者のお手柄です。」

 アメリア・ドッティの救助に、セイヤーズとゴールドスミスの2人のドーマーの他に、もう1人女性が協力したことも、ケンウッド達は聞いていたので、頷いた。

「ある女性が最初に事故に気が付いたのだったね?」
「そうです。それで、ドッティさんが、明日、朝食会を開いて命の恩人達にお礼をしたいと言って来まして・・・」