2018年10月2日火曜日

捕獲作戦  2 2 - 4

 直接廊下を覗くことは不可能だったので、レインはあらかじめホテルの室内に備え付けのモニターを廊下の監視カメラに接続してあった。それを見ていると、セイヤーズは指定された部屋のドアをノックして、それからドアの中の人間から見れば死角になる位置に身を寄せた。ドアが開いてハリスが顔を出した、と思った瞬間、セイヤーズがドアの陰から飛び出して支局長の顔面を殴りつけた。そして2人は室内に消えた。

「殴りつけた?」

 ハイネの声が気のせいか面白がっている様に聞こえた。レインは局長があの酔いどれコロニー人を大層嫌っていたことを思い出した。砂漠の中の田舎町に追放されてから、経済的な理由もあるが、ハリスは飲酒をしていない。1日も早くコロニーへの帰還許可を得ようと必死で努力していたのだ。
 レインは言った。

「俺がモニターで見た限りでは、セイヤーズは弾みで殴ったのではなく、計画的でした。ノックした時の返事の声が俺ではないとわかったでしょうし、それより俺が部屋へ誘う筈がないと踏んだのでしょう。」

 部屋の中の様子はわからなかったので、レインはモニターで廊下を見張りながら、支局の保安課に電話を掛けた。腰抜けハリスが1人でホテルに来ているとは信じられなかったのだ。果たして、保安要員が数名ホテルの出口で待機していた。彼等はただ支局長に護衛を命じられただけで、真の目的を知らされていなかった。だから、レインが護衛は本部局員が引き受けるから君達は帰ってよろしいと言うと、喜んでさっさと撤収してしまった。
 保安要員が去ると数分後にセイヤーズが部屋から出て来た。そのまま足早にホテルから出て行こうとしたので、レインは支局長の端末に電話を掛けた。生死を確認する必要があった。しかし、電話に出たのは、ハリスではなく、駐車場に姿を現したセイヤーズだった。レインは彼を引き止める口実を思いつかぬまま、不機嫌なセイヤーズを一旦見逃した。ハリスの無事を確かめる必要がまだ残っていた。
 ハリスは鼻腔骨折で済んでいた。何故脱走者に無断で接触する危険を侵したのかとレインが責めると、手柄を立てて火星に帰りたかった、と答えた。自分でセイヤーズを捕まえられると思っていたのだ。
 レインは彼をホテルの医務室へ連れて行き、手当を受けさせて帰した。全部終わると遅い時刻になっていた。

「俺は取り敢えず部下達をホテルで休ませ、ワグナーにはヘリの用意を命じました。セイヤーズが山の家に帰ったことは彼が盗んだハリスの端末で追跡できましたから。彼を必ず捕まえられると自信がありました。捕まえたらワグナーにヘリで運んでもらうつもりでした。」