2018年10月27日土曜日

JJのメッセージ 2 1 - 7

 ライサンダー・セイヤーズを川に転落させてしまい、行方不明にしてしまって以来、ポール・レイン・ドーマーはダリル・セイヤーズ・ドーマーに近くことを避けていた。後ろめたかったのだ。しかし、記憶削除手術の後人形状態になってしまったセイヤーズを呼び起こした夜から、少し気分が楽になったようだ。セイヤーズの合コンの誘いを受けて、彼は私服で出産管理区の朝食会に出席した。
 中央研究所の食堂のガラス越しに、合コン、元い、朝食会の様子が観察出来た。レインのファンクラブの面々が、女性達やセイヤーズと親しげに談笑するレインを見て、悔し涙を流していたが、ケンウッドは無視した。レインもセイヤーズも自然に女性と会話が出来ている。ドーマーだと言う意識はなく、普通の地球人の男性として、女性と接しているのだ。ケンウッドは保安課員のピーター・ゴールドスミス・ドーマーが気になった。生粋のドーマーとして養育された男だ。現在の職場もセイヤーズの監視だから出産管理区の近くにいるが、本来はゲート周辺のドーム内の護衛が仕事の筈だから、女性への免疫がない。
制服を着ているが、セイヤーズにアドバイスされたのか、上着は脱いで、少しラフにシャツも崩した形で着ていた。なかなか良い男っぷりなので、早くも女性の中の何人かは彼に話しかけている。

「ピーターはドキドキしているでしょうな。」

 上司のロアルド・ゴメス少佐がケンウッドの隣のテーブルに座って、苦笑した。初な我が子を見守っている気分なのは、彼も同じだろう。ケンウッドも思わず微笑んでいた。

「あの子は自分がいかに女性に好まれる容姿をしているか、わかっていないだろうからね。女性達の注目が全部レインに向かっていると思い込んでいる。だから、女性に声をかけられてドギマギしているのだよ。」
「コロニーでも男子校の生徒はあんな風ですよ。女子校の生徒は結構大胆ですが、男子はいけませんな。共学校の生徒の度胸の半分もない。」

 ケンウッドはゴメス少佐を見た。

「少佐は男子校出身でしたか?」
「お恥ずかしいことに、その通りです。親の方針で幼稚園の時から男子校で育ちました。軍隊に入ったら、上官が女性ばかりで恐怖でしたよ。」

 ゴメスが豪快に笑ったので、周囲が振り返った。ケンウッドも笑顔で彼等に頷いて見せた。楽しい話題をしているのだから、邪魔しないでくれよ、と。
 レインもセイヤーズも世間慣れしているので、上手に会話をコントロールした。女性のリーダー格のアメリア・ドッティが、もう1人の恩人であるアフリカ系の女性を立てて話をしているのを、フォローしていた。会話の内容はガラス壁のこちらには聞こえないが、ケンウッドにはそう見えた。ただ、アフリカ系の女性の表情があまり明るくないことが気になった。
 そっと検索すると、ポーレット・ゴダートと言う名前で、無事に男子を出産している。ところが出産管理区から彼女に子供を養子に出す勧告が出ているのだ。

 どう言う理由だ?

 ケンウッドはもう一度その女性を見た。美しい黒い肌のほっそりとした女性だ。取り替え子ではなく、養子勧告とは? 彼女の身に何があったのだろう?