2018年10月6日土曜日

捕獲作戦  2 2 - 7

 科学者達は順番に静かにダリル・セイヤーズ・ドーマーの体を突き回して検体を採取して行った。容器に細胞や体液を入れると順次検査室から退出し、足早に自分達の研究室へと向かった。時刻は夜中だったが、コロニー人は気にしない。
 監視と順番待ちでセイヤーズの頭の位置で立って見ているケンウッドとゴーンは疲れて来たが、残る科学者はダルフーム博士一人になったので、少しホッとした。ケンウッドは見学者席のハイネ局長とターナー総代を見た。呆れたことに、彼等は互いの体にもたれ合うようにして居眠りをしていた。昼間働いているのだから、無理もない。それに彼等は科学者ではないから、人間の体に針を刺して微細な細胞を採る作業を見ていても面白くないのだ。
 気がつくとゴーンも彼等を見て微笑んでいた。
 ダルフームが染色体研究者としてセイヤーズの生殖細胞を採取した。しかしそれを容器に収納すると、ケンウッドに近づいて来た。

「長官、これを貴方が調べてくれませんか?」
「私が?」

 ケンウッドは驚いてドーム執政官の大先輩を見た。ダルフームはケンウッドよりも長くアメリカ・ドームで働いている。重力休暇を上手に取って、地球人と殆ど変わらない程度にこの惑星の引力に馴染んでいる。年齢もハイネより少し若い程度だ。
 ケンウッドは差し出された容器をダルフームに押し返そうとした。

「地球人女性、つまり我々が製造するクローンの染色体に、地球人男性を拒否する何か原因を持つ因子があることを発見したのは、貴方だ。これは貴方が研究するべきです。」
「否、私はもう年寄りです。正直なところ、顕微鏡を覗くのも億劫になって来ています。このドーマーの遺伝子を分析するのにかかる時間を考えただけで、疲れを感じました。これは貴方に託したい。貴方の専門が皮膚の老化に関する遺伝情報であることは知っています。ですが、貴方も遺伝子学者の端くれだ。この稀な遺伝子を分析出来る筈です。どうか、地球を救う鍵を貴方が見つけて下さい。」

 ケンウッドはどうしたものかとゴーンを見た。ラナ・ゴーンが微かに微笑んだ。

「誰が手柄を立てるとか、そう言う問題ではございませんでしょう、長官。」

 彼女はダルフーム博士を見た。

「博士も有名になりたいとか、そんなことを問題になさっているのではありませんよね。」
「勿論です。」
「共同で分析なさっては如何です? 私、予々疑問に感じておりました。何故、ドームの科学者達は自分の部屋から外へ出ようとしないのかって・・・」

 それは分野が違うから、と言いかけてケンウッドは思い直した。ダルフームは年齢の限界を感じているのだ。90歳はこの時代のコロニー人にとって決して「老齢」に入らない。しかし、科学の最先端で働く者にとっては、もう「頭が古い」部類になってしまう。
 ケンウッドはダルフームがまだ差し出したままの容器を手に取った。

「私の知らないことも多いと思います。一緒に分析させて下さい、博士。」

 ダルフームが微笑んで頷いた時、ハイネとターナーが目を覚ました。
ハイネが無遠慮に伸びをして、ケンウッドに言った。

「そろそろ引き上げてもよろしいか、長官?」