2018年10月9日火曜日

中央研究所  2 1 - 7

 ケンウッドが眠気と闘いながら午後の業務をこなしていると、端末にロアルド・ゴメス少佐から電話が入った。保安課長が掛けてくると碌なことがない。ドームの保安上の問題が起きたと言う意味に他ならないからだ。渋々仕事の手を止めて電話に出ると、ゴメスは開口一番、観察棟にお出で願いたい、と言った。
 ドキリとした。観察棟には、進化型1級遺伝子危険値S1のダリル・セイヤーズ・ドーマーが収容されている。病状の重いクローンの子供も3名入っているが、あの子供達はドームのセキュリティに問題をもたらすと思えないので、セイヤーズが何かやらかしたと言うことか?

「電話では言えないのか?」
「申し訳ありません。出来れば内密に処理したく・・・」

 いつも強気の元宇宙軍特殊部隊出身の精鋭が、声を潜める様に言った。ケンウッドが残った仕事量を考えて数秒間返答を遅らせると、ゴメスは更に言い添えた。

「副長官も貴方を待っておられます。」
「ゴーン博士も?」

 どうも只ならぬ問題が生じた様だ。ケンウッドは念のために保安課長に尋ねた。

「遺伝子管理局長も呼んだのか?」

 ゴメスは抜かりない男だ。

「長官から連絡して頂ければ有難いと思いましたが、緊急ですから、連絡を入れておきました。」

 ハイネも呼ばれたとなると、やはり問題はセイヤーズに関係している。ケンウッドは業務のページを閉じた。

「わかった。すぐ行く。」

 ゴメスはセイヤーズの名を出すことなくケンウッドを動かした。ケンウッドは二人の秘書に、観察棟に行ってくる、と告げた。

「重大問題が発生したらしい。もし誰かが私に面会を求めて来たら、手が離せない急用で面会謝絶だと言ってくれ。要件は聞いておいてくれ。」