2018年10月20日土曜日

JJのメッセージ 2 1 - 2

「朝食会?」
「はい。ドッティさんは明日の午後退所されるので、朝食会でドームに来てから親しくなった人々とお別れを言いたい、とお考えです。その時に命の恩人もお招きしたいと仰るのです。」

 食事会そのものは禁止されていない。女性たちが時々仲良くなったメンバーばかりで集まって食事をしている姿を、中央研究所側の食堂から見かけたことがある。彼女達は無事に出産出来たことを喜び合ったり、励ましあったり、慰め合ったり、と友情を温めているのだ。広い外の世界に戻れば、育児で忙しくなるし、家族との生活が待っている。何時再会出来るかわからない友達と短い時間だが濃密に過ごしているのだ。
 恩人を招くと言う行為は、女性達には特別なことではないだろう。感謝の気持ちを表したいだけだ。だがドーム側にはドーマーを余り世間に曝したくないと言う都合がある。世話係のドーマーが女性達と私語を交わさない理由の一つでもある。ドーマー達は外の世界を知らない。うっかり会話をして女性達に違和感を与えてしまうことを地球人類復活委員会は恐れていた。取り替え子の秘密は守らねばならない。ドーマーが実の母親から奪われた子供であることも、女性達本人がその取り替え子であることも、絶対に知られてはならないのだ。
 ランバートはケンウッドに、ドーマーを食事会に付き合わせても良いかとお伺いを立てて来たのだった。
 ケンウッドはちょっと考えた。セイヤーズは18年間外で暮らしていたから、女性達の会話について行けるだろう。彼はドームの秘密を脱走中も守ってきた。だから食事会でボロを出すことはない筈だ。保安課のゴールドスミスはどうだろうか? 保安課は外に出ない。女性と接触することもない。コロニー人の女性研究者と会話をする機会も殆どないだろう。口の固さではドーマーの中で一番と言われるが、女性に慣れていないので舞い上がったりしないだろうか。
 ケンウッドは画面の中のランバートを見た。

「少し時間をくれないか? ドーマー達に誘いを受けるかどうか、私が訊いて、返答する。夕食時間迄に連絡する。」

 つまり、ドーマーの出席を禁じないと言う意味だ、とランバートは解釈したらしい。ちょっと肩の力を抜いた様子で、微笑した。

「わかりました。では私の個人番号に掛けて頂けますか? お待ちしてます。」