春分祭が終わり、男性執政官達は中央研究所の大会議室で打ち上げをしながら、テレビの画像をチェックしていた。誰もが自身の女装姿を見たくないのだが、他人のは見たい・・・。
優勝者のケンウッドとパーシバルはささやかな賞金と1年分の口紅を折半した。予算と言うものがあるので、優勝者が複数出ると、賞金は等分に配当されねばならない。自分達の研究室の弟子達に酒を奢ると消えてしまいそうな金額だった。
ケンウッドは鬘を取り、付け睫も取った。早く化粧を落としたいのだが、リプリー長官が最後のインタビューを終えて戻って来る迄副長官として待たねばならない。
ヘンリー・パーシバルはくたびれた様子で、「お先に失礼」とアパートに帰ってしまった。
会議室の一画で若い執政官達が賑やかに騒いでいた。見ると、彼等はドーマーばかりを追いかける木星の局を見ているのだった。
「相変わらずポール・レインは愛想がないなぁ。」
「せめて微笑んで見せれば良いのに。」
「セイヤーズがいないんじゃ、無理だよ。」
「おおっ、ローガン・ハイネだ!」
「なんと、逃げ足の速いこと!」
「保安課の妨害も慣れたもんじゃないか。」
「げげっ、クロエルちゃんだ!」
画面いっぱいにクロエル・ドーマーの顔が現れた。カメラはこの初登場の若者にびっくりして退いた。クロエルはお洒落をしていた。黒い縮れ毛を細かく三つ編みにしてドレッドヘアを作っていた。お祭りの日は遺伝子管理局も業務は休みで、彼はスーツではなく私服なのだが、それがまたど派手な色彩のチュニックで、彼の浅黒い肌によく似合っていた。
「アイツ、絶対にファッションセンス抜群だよな?」
「うん。自分で考えるって言ってたけど、何着ても似合ってるんだ。」
「しかも、格好いい。」
クロエル・ドーマーはカメラに向かって陽気にお喋りを始めた。本日の女装執政官の見所解説だ。いつもの早口なのだが、テンポもリズムも良くてノリノリ、しかもジョークまで飛ばして、報道陣を集めてしまう始末だ。
「彼、芸能人に向いているぞ。」
「これは新しいドームのスター誕生だな。」
どんなに評判が良くても、ドームの中のイベントは決して地球上では放映されない。ドーマー達は地球人なのに同胞に存在を知られることもなく、しかし宇宙では有名になっていく。ケンウッドは溜息をついた。彼にとって救いなのは、ドーマー達が幸せに暮らしていることだ。彼等は地球の未来の為に親から引き離され、育てられ、働いていることを誇りに思っている。
やっとリプリー長官が会議室に現れ、春分祭の労を労う挨拶をして、解散となった。
女装したままの者や、半分男性に戻りかけている者など、不気味な姿の男達がぞろぞろと各自のアパートや研究室に向かって歩き始めた。
ケンウッドはヤマザキが脱いだ重たい十二単の衣装を半分持ってやった。
「しかし、これは実際の衣装の半分の重さなんだ。古代の日本女性はもっと重たい着物を着ていたんだよ。」
「それじゃ体力は半端じゃないな。」
「ところが、こう言うのを着ていた貴族の女性達はひ弱ですぐ病気に罹って死んでしまう。」
「この衣装の重みが原因じゃないのか?」
2人でくだらない会話をしながら独身男性用アパートに向かって歩いていると、突然ヤマザキの端末に電話が着信した。ヤマザキが出ると、ケンウッドの耳に女性の声らしき音声が聞こえた。何か興奮している様子だ。ヤマザキはうんうんと聞いていたが、その表情が硬くなったのにケンウッドは気が付いた。急患か?
「それじゃ、取り敢えず落ち着いたんだな? すぐそっちへ向かうから、ドアを開けておいてくれ。」
ヤマザキは端末を仕舞い、ケンウッドを振り返った。
「ヘンリーが倒れた。」
「えっ!」
ケンウッドは足早に歩き始めたヤマザキに並んだ。
「倒れたとは?」
「胸を押さえて急に苦しみ始めたそうだ。彼は心臓疾患を持っていないから、多分、重力障害だな。筋肉疲労が溜まって一時的な呼吸困難に陥ったに違いない。」
「電話は女性からだったと思えたが?」
「うん。キーラ博士だ。彼女が応急処置をしてくれたが、産科だから自信がないと言っていた。」
2人は彼等が住むアパートに到着した。
優勝者のケンウッドとパーシバルはささやかな賞金と1年分の口紅を折半した。予算と言うものがあるので、優勝者が複数出ると、賞金は等分に配当されねばならない。自分達の研究室の弟子達に酒を奢ると消えてしまいそうな金額だった。
ケンウッドは鬘を取り、付け睫も取った。早く化粧を落としたいのだが、リプリー長官が最後のインタビューを終えて戻って来る迄副長官として待たねばならない。
ヘンリー・パーシバルはくたびれた様子で、「お先に失礼」とアパートに帰ってしまった。
会議室の一画で若い執政官達が賑やかに騒いでいた。見ると、彼等はドーマーばかりを追いかける木星の局を見ているのだった。
「相変わらずポール・レインは愛想がないなぁ。」
「せめて微笑んで見せれば良いのに。」
「セイヤーズがいないんじゃ、無理だよ。」
「おおっ、ローガン・ハイネだ!」
「なんと、逃げ足の速いこと!」
「保安課の妨害も慣れたもんじゃないか。」
「げげっ、クロエルちゃんだ!」
画面いっぱいにクロエル・ドーマーの顔が現れた。カメラはこの初登場の若者にびっくりして退いた。クロエルはお洒落をしていた。黒い縮れ毛を細かく三つ編みにしてドレッドヘアを作っていた。お祭りの日は遺伝子管理局も業務は休みで、彼はスーツではなく私服なのだが、それがまたど派手な色彩のチュニックで、彼の浅黒い肌によく似合っていた。
「アイツ、絶対にファッションセンス抜群だよな?」
「うん。自分で考えるって言ってたけど、何着ても似合ってるんだ。」
「しかも、格好いい。」
クロエル・ドーマーはカメラに向かって陽気にお喋りを始めた。本日の女装執政官の見所解説だ。いつもの早口なのだが、テンポもリズムも良くてノリノリ、しかもジョークまで飛ばして、報道陣を集めてしまう始末だ。
「彼、芸能人に向いているぞ。」
「これは新しいドームのスター誕生だな。」
どんなに評判が良くても、ドームの中のイベントは決して地球上では放映されない。ドーマー達は地球人なのに同胞に存在を知られることもなく、しかし宇宙では有名になっていく。ケンウッドは溜息をついた。彼にとって救いなのは、ドーマー達が幸せに暮らしていることだ。彼等は地球の未来の為に親から引き離され、育てられ、働いていることを誇りに思っている。
やっとリプリー長官が会議室に現れ、春分祭の労を労う挨拶をして、解散となった。
女装したままの者や、半分男性に戻りかけている者など、不気味な姿の男達がぞろぞろと各自のアパートや研究室に向かって歩き始めた。
ケンウッドはヤマザキが脱いだ重たい十二単の衣装を半分持ってやった。
「しかし、これは実際の衣装の半分の重さなんだ。古代の日本女性はもっと重たい着物を着ていたんだよ。」
「それじゃ体力は半端じゃないな。」
「ところが、こう言うのを着ていた貴族の女性達はひ弱ですぐ病気に罹って死んでしまう。」
「この衣装の重みが原因じゃないのか?」
2人でくだらない会話をしながら独身男性用アパートに向かって歩いていると、突然ヤマザキの端末に電話が着信した。ヤマザキが出ると、ケンウッドの耳に女性の声らしき音声が聞こえた。何か興奮している様子だ。ヤマザキはうんうんと聞いていたが、その表情が硬くなったのにケンウッドは気が付いた。急患か?
「それじゃ、取り敢えず落ち着いたんだな? すぐそっちへ向かうから、ドアを開けておいてくれ。」
ヤマザキは端末を仕舞い、ケンウッドを振り返った。
「ヘンリーが倒れた。」
「えっ!」
ケンウッドは足早に歩き始めたヤマザキに並んだ。
「倒れたとは?」
「胸を押さえて急に苦しみ始めたそうだ。彼は心臓疾患を持っていないから、多分、重力障害だな。筋肉疲労が溜まって一時的な呼吸困難に陥ったに違いない。」
「電話は女性からだったと思えたが?」
「うん。キーラ博士だ。彼女が応急処置をしてくれたが、産科だから自信がないと言っていた。」
2人は彼等が住むアパートに到着した。