「終点のヴァージョン? 何だ、それ?」
ケンウッドは思わず尋ねた。ヤマザキが苦笑した。
「重力障害で退官を余儀なくされた執政官に、重力をものともしない執政官が付き添って最後の旅のお供をする。」
キーラ・セドウィックは父親が地球人なので重力には地球人並の耐性があるのだろう。彼女はそれを誤魔化す目的で年に数日だけ重力休暇を取って、コロニーに残っている年老いた母親に会いに帰る。恐らく彼女はかなりの日数の有給休暇を溜め込んでいるはずだ。
それを利用してヘンリー・パーシバルの退官記念旅行に付き添うのだ。
当の父親は、娘が何をしようがてんで無関心だ。ドーマーなので親と言う自覚が欠如している、とケンウッドは感じた。
「その同伴は、彼女の希望なのだろう? ヘンリーはどう思っているのだろう?」
ヘンリー・パーシバルは美男子好きだ。しかし、ゲイではない。ケンウッドは世間が親友を誤解していることを承知していた。男性同士で恋愛するドーマー達を見ていると、パーシバルが美男子の追っかけをしているのが恋愛とは異なるのだとわかる。パーシバルは人間の美を追究しているのであって、その対象がたまたま男性ばかりが住んでいる世界の地球人の男だと言うだけだ。もし女性ばかりが収容されている出産管理区で働いていたら、きっと妊産婦を追っかけていたかも知れないが、それでは痴漢と間違えられる・・・。
ヤマザキはケンウッドの問いに、ニヤリと笑った。
「ヘンリーも春分祭の夜の出来事からずっと彼女を気にしているんだ。医療区に彼女の休憩時間のスケジュールを聞いてみたり、食堂に出かける時を彼女の時間に合わせてみたり・・・」
するとこの会話が始まってから初めてハイネが食事の手を止めた。
「ヘンリーはキーラに関心を持っているのですか?」
「執政官同士の恋愛に遺伝子管理局が出る幕はないよ。」
ヤマザキはちょっと冗談めかして言ったのだが、ハイネは笑わなかった。
「2人共50代ですから、他人が口出しすることではありませんが、女は慎重に選ぶべきです。」
ハイネの懸念はそこなのか、とケンウッドは軽い衝撃を受けた。友人が娘に関心を持っていることは問題ではない。娘が、彼自身を翻弄した女性の子供だと言うことが彼の懸念なのだ。つまり、ハイネはパーシバルがキーラに翻弄されはしないかと心配しているのだ。
ヤマザキがハイネを宥めた。
「キーラ・セドウィックは立派な人格者だ。男をからかったり、弄んだりしない。それは君が30年間彼女と一緒に仕事をしてきて知っているだろう? ヘンリーだって、ただ彼女が命の恩人だからとか、君の・・・」
彼はちょっと躊躇ってから続けた。
「君の縁者だからとか、そんな理由で関心を持った訳じゃない。彼女は女性として魅力的なんだ。僕だって彼女を1人の女性として素敵だと思っている。ただ僕には交際している人がいるし、そちらの彼女の方が僕にとってはキーラより上だと言うことさ。
だから、君もヘンリーとキーラの関係がどう動くか、黙って見守ってやってくれよ。」
ハイネは彼をじろりと見て、それからケンウッドに視線を移した。ケンウッドはハイネの心の傷がまだ癒えていないのかと心配だったが、気が付かないふりをして言った。
「父親は娘の恋愛に反対したがるものだからな。」
周囲に聞こえては困る話題なので、続けて誤魔化した。
「君にとって彼女は娘みたいな人だから、気になるのだろう? 親父の嫉妬だよ。」
ハイネは気を削がれたらしく、また料理に注意を戻した。
「私が何故彼女に嫉妬しなきゃならないんです? 一週間あの口うるさい女帝から解放されると思うと、ホッとしますよ。」
これはハイネ流の冗談なのだろうか? ヤマザキとケンウッドは顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。
ケンウッドは思わず尋ねた。ヤマザキが苦笑した。
「重力障害で退官を余儀なくされた執政官に、重力をものともしない執政官が付き添って最後の旅のお供をする。」
キーラ・セドウィックは父親が地球人なので重力には地球人並の耐性があるのだろう。彼女はそれを誤魔化す目的で年に数日だけ重力休暇を取って、コロニーに残っている年老いた母親に会いに帰る。恐らく彼女はかなりの日数の有給休暇を溜め込んでいるはずだ。
それを利用してヘンリー・パーシバルの退官記念旅行に付き添うのだ。
当の父親は、娘が何をしようがてんで無関心だ。ドーマーなので親と言う自覚が欠如している、とケンウッドは感じた。
「その同伴は、彼女の希望なのだろう? ヘンリーはどう思っているのだろう?」
ヘンリー・パーシバルは美男子好きだ。しかし、ゲイではない。ケンウッドは世間が親友を誤解していることを承知していた。男性同士で恋愛するドーマー達を見ていると、パーシバルが美男子の追っかけをしているのが恋愛とは異なるのだとわかる。パーシバルは人間の美を追究しているのであって、その対象がたまたま男性ばかりが住んでいる世界の地球人の男だと言うだけだ。もし女性ばかりが収容されている出産管理区で働いていたら、きっと妊産婦を追っかけていたかも知れないが、それでは痴漢と間違えられる・・・。
ヤマザキはケンウッドの問いに、ニヤリと笑った。
「ヘンリーも春分祭の夜の出来事からずっと彼女を気にしているんだ。医療区に彼女の休憩時間のスケジュールを聞いてみたり、食堂に出かける時を彼女の時間に合わせてみたり・・・」
するとこの会話が始まってから初めてハイネが食事の手を止めた。
「ヘンリーはキーラに関心を持っているのですか?」
「執政官同士の恋愛に遺伝子管理局が出る幕はないよ。」
ヤマザキはちょっと冗談めかして言ったのだが、ハイネは笑わなかった。
「2人共50代ですから、他人が口出しすることではありませんが、女は慎重に選ぶべきです。」
ハイネの懸念はそこなのか、とケンウッドは軽い衝撃を受けた。友人が娘に関心を持っていることは問題ではない。娘が、彼自身を翻弄した女性の子供だと言うことが彼の懸念なのだ。つまり、ハイネはパーシバルがキーラに翻弄されはしないかと心配しているのだ。
ヤマザキがハイネを宥めた。
「キーラ・セドウィックは立派な人格者だ。男をからかったり、弄んだりしない。それは君が30年間彼女と一緒に仕事をしてきて知っているだろう? ヘンリーだって、ただ彼女が命の恩人だからとか、君の・・・」
彼はちょっと躊躇ってから続けた。
「君の縁者だからとか、そんな理由で関心を持った訳じゃない。彼女は女性として魅力的なんだ。僕だって彼女を1人の女性として素敵だと思っている。ただ僕には交際している人がいるし、そちらの彼女の方が僕にとってはキーラより上だと言うことさ。
だから、君もヘンリーとキーラの関係がどう動くか、黙って見守ってやってくれよ。」
ハイネは彼をじろりと見て、それからケンウッドに視線を移した。ケンウッドはハイネの心の傷がまだ癒えていないのかと心配だったが、気が付かないふりをして言った。
「父親は娘の恋愛に反対したがるものだからな。」
周囲に聞こえては困る話題なので、続けて誤魔化した。
「君にとって彼女は娘みたいな人だから、気になるのだろう? 親父の嫉妬だよ。」
ハイネは気を削がれたらしく、また料理に注意を戻した。
「私が何故彼女に嫉妬しなきゃならないんです? 一週間あの口うるさい女帝から解放されると思うと、ホッとしますよ。」
これはハイネ流の冗談なのだろうか? ヤマザキとケンウッドは顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。