ケンウッドは規則改定に伴う書類仕事が予想外に多いことに閉口した。なんとかやっつけ仕事で片付けると既に1時半を廻っていた。遅いお昼を食べに一般食堂へ行くと、丁度ハイネ局長も自身のトレイを持ってお気に入りのテーブルに着くところだった。
ケンウッドが料理を選んでいる間に、ハイネのテーブルにはドーマー達が10数人ばかり入れ替わり立ち替わりやって来て、何か挨拶みたいな会話をしているのが見えた。ハイネは真面目な顔で彼等の相手をしていたので、ケンウッドが同席許可を求める迄食事に手を付けられなかった。
ケンウッドは腰を下ろし、ナイフとフォークを手に取った。
「ドーマー達は例の規則改定の件で君に何か言ってきたのかね?」
と尋ねると、ハイネは苦笑した。
「感謝を言いに来たのですよ。私が規則を変えたのではなく、長官と副長官が提案されたのだと何人に説明したことか・・・」
「彼等が中央研究所へ挨拶に来ることなどないだろうから、君を通してくれれば良いのさ。」
「私からも感謝の言葉を贈りたいです。グレゴリーが少しでも楽になれば良いのですが。」
「彼はまだ後継者候補を決めていないのか?」
「まだの様ですね。公募すれば早いのかも知れませんが、局長秘書は厳しい仕事ですから、希望者がいるとは思えません。」
「そうかな? 君の下で働きたい人はいると思うが・・・」
そこへヤマザキ・ケンタロウがやって来た。食事は済ませたらしく、珈琲カップだけ持ってケンウッド達のテーブルに無断で着いた。座るなり、彼は尋ねた。
「ヘンリーが地球を発つ前に1週間旅行に行くって、知っていたか?」
ケンウッドは頷いた。ハイネも同じく頷いた。
「昨夜聞いた。」
「私は今朝聞きました。」
「なんだ・・・みんな知っていたのか・・・」
ヤマザキはさもがっかりした様に言ったが、目は笑っていた。
「退官する執政官の特権だな、地球見学旅行だ。彼はヨーロッパの美術館を巡って美男子の肖像画を見て廻るそうだ。」
「美男子ですか?」
とハイネが落胆したふりをした。
「私だったら、裸婦像を見て廻りますけどね。」
ケンウッドとヤマザキが笑った。本当にローガン・ハイネは女が好きなのだ。笑いながらヤマザキが言った。
「だけど、これは君達知らないだろう? ヘンリーの旅行には同伴者がいるんだ。」
「同伴者?」
「彼は病人だから、万が一のことがあってはならないと言うので、医師が1人付いていく。」
「監視付きなのか・・・」
「誰だと思う? キーラ・セドウィックだ!」
ケンウッドは思わず食事の手を止めた。ハイネは知らん顔をして食べている。
ケンウッドは喉が詰まるかと思ったが、何とか口の中の物を呑み込んだ。
「キーラ博士がどうしてヘンリーに付き添うのだ? 彼女は産科医だろう?」
「彼女は助けた命を最後まで見守りたいのさ。」
ヤマザキはハイネを見た。それで良いのか? 娘が男と旅行だぞ? それだけを目で老ドーマーに訴えた。ハイネは気づかないふりをした。
「付き添いはドームの規則ですか?」
「否・・・ある終点のヴァージョンだな。」
ケンウッドが料理を選んでいる間に、ハイネのテーブルにはドーマー達が10数人ばかり入れ替わり立ち替わりやって来て、何か挨拶みたいな会話をしているのが見えた。ハイネは真面目な顔で彼等の相手をしていたので、ケンウッドが同席許可を求める迄食事に手を付けられなかった。
ケンウッドは腰を下ろし、ナイフとフォークを手に取った。
「ドーマー達は例の規則改定の件で君に何か言ってきたのかね?」
と尋ねると、ハイネは苦笑した。
「感謝を言いに来たのですよ。私が規則を変えたのではなく、長官と副長官が提案されたのだと何人に説明したことか・・・」
「彼等が中央研究所へ挨拶に来ることなどないだろうから、君を通してくれれば良いのさ。」
「私からも感謝の言葉を贈りたいです。グレゴリーが少しでも楽になれば良いのですが。」
「彼はまだ後継者候補を決めていないのか?」
「まだの様ですね。公募すれば早いのかも知れませんが、局長秘書は厳しい仕事ですから、希望者がいるとは思えません。」
「そうかな? 君の下で働きたい人はいると思うが・・・」
そこへヤマザキ・ケンタロウがやって来た。食事は済ませたらしく、珈琲カップだけ持ってケンウッド達のテーブルに無断で着いた。座るなり、彼は尋ねた。
「ヘンリーが地球を発つ前に1週間旅行に行くって、知っていたか?」
ケンウッドは頷いた。ハイネも同じく頷いた。
「昨夜聞いた。」
「私は今朝聞きました。」
「なんだ・・・みんな知っていたのか・・・」
ヤマザキはさもがっかりした様に言ったが、目は笑っていた。
「退官する執政官の特権だな、地球見学旅行だ。彼はヨーロッパの美術館を巡って美男子の肖像画を見て廻るそうだ。」
「美男子ですか?」
とハイネが落胆したふりをした。
「私だったら、裸婦像を見て廻りますけどね。」
ケンウッドとヤマザキが笑った。本当にローガン・ハイネは女が好きなのだ。笑いながらヤマザキが言った。
「だけど、これは君達知らないだろう? ヘンリーの旅行には同伴者がいるんだ。」
「同伴者?」
「彼は病人だから、万が一のことがあってはならないと言うので、医師が1人付いていく。」
「監視付きなのか・・・」
「誰だと思う? キーラ・セドウィックだ!」
ケンウッドは思わず食事の手を止めた。ハイネは知らん顔をして食べている。
ケンウッドは喉が詰まるかと思ったが、何とか口の中の物を呑み込んだ。
「キーラ博士がどうしてヘンリーに付き添うのだ? 彼女は産科医だろう?」
「彼女は助けた命を最後まで見守りたいのさ。」
ヤマザキはハイネを見た。それで良いのか? 娘が男と旅行だぞ? それだけを目で老ドーマーに訴えた。ハイネは気づかないふりをした。
「付き添いはドームの規則ですか?」
「否・・・ある終点のヴァージョンだな。」