ヘンリー・パーシバルは半時間もしないうちに立ち上がれる迄に回復した。ケンウッドとヤマザキは疲れていたが、彼がバスルームで化粧を落として夜着に着替える迄付き合った。
「僕等は毎日筋トレをして重力対策をしているが、ヘンリーは何もしないからなぁ。」
「年に2ヶ月重力休暇で火星に帰るだけだろう? それだって、仕事やファンクラブのまとめで切り上げて戻って来るのだから、役に立っていないはずだ。」
コロニー人達が重力対策の話をしているのを、横で地球人のハイネが黙って聞いていた。彼は午前中に着ていたスーツではなく、カジュアルな服装をしていたので、午後はドーマー仲間と休日を楽しんでいたに違いない。或いは夕食後に何処かで飲んでいたか?
ケンウッド達は表彰式の前に軽く食べていたが、空腹を感じた。バスルームのパーシバルに声を掛けてキッチンを覗くと、ビスケットとチョコレートがあったので、少し頂くことにした。
ケンウッドはハイネにも勧めたが、老ドーマーはお腹は空いていないと断った。
「アパートに戻っていたのかい、局長?」
「いいえ、ワッツやペルラ達と一緒に居ました。」
飲んでいたとは言わない。飲んでいたに違いないのだが、ドーマーは飲酒しないことが建前なので、ハイネは自身のアパート以外の場所では絶対に飲酒を認めないのだ。
「お楽しみの最中に呼び出されて申し訳なかったね。」
「お開きにする頃でしたから、問題ありませんよ。」
呼び出される直前に何処に居たのか知らないが、ハイネは娘からの救援要請を受けて飛んで来たのだ。友人の一大事と聞いて急いだのかも知れないが。
パーシバルがバスルームから出て来た。化粧を落としてさっぱりとした顔だ。
「今夜はキーラにキスしてもらえたし、ハイネに御姫様抱っこで運んでもらえたし、ついでに言えば、衣装も剥ぎ取ってもらえて、最高の気分だ。」
他人事みたいに冗談めかして言うので、ケンウッドはコルセットを手にした。
「またこれで締め上げてやろうか?」
「それは勘弁してくれ。」
パーシバルがもう大丈夫だと言うので、ヤマザキは明朝の診察を忘れるなと念を押してハイネと共に部屋を出て行った。
ケンウッドはパーシバルが大人しくベッドに入る迄見守った。
「キーラに心肺蘇生をしてもらったそうだな?」
「うん・・・役得だけど、記憶にない・・・残念ながら。」
パーシバルは苦笑して、ふと真顔になった。
「彼女が救援を電話で呼ぶのが聞こえたのだが、最初は誰と話しているのか、わからなかった。実は、彼女は『お父様』って言ってたんだ。そうしたら、来たのがハイネだったので驚いた。」
ケンウッドはその話題をスルーした。ふーんと軽く受け流したが、パーシバルはこだわった。
「彼女はどうして医療区じゃなくハイネに電話したんだろ?」
「それは、ハイネが近くに居るのを知っていたからだろう。アパートの方が医療区より近いからね。」
ハイネとキーラの秘密をパーシバルになら話しても良いだろうと思えたが、やはりケンウッドは黙っていた。もう夜更けだし、パーシバルを早く眠らせたかった。
「私は部屋に戻るが、もし気分が悪くなったらいつでも電話してくれ。」
「わかった。」
「明日は定刻に迎えに来る。必ず医療区へ行けよ。」
「わかった。」
「リプリー長官にも君自身で報告しておいた方が良いと思う。黙っていたら、ケンタロウやキーラに迷惑がかかるぞ。」
「わかった。」
「ちゃんと水分を摂れよ。」
「わかった。」
「おやすみ。」
「わかった・・・おやすみ。」
ケンウッドは静かにドアを閉じて自身の部屋へ向かった。
「僕等は毎日筋トレをして重力対策をしているが、ヘンリーは何もしないからなぁ。」
「年に2ヶ月重力休暇で火星に帰るだけだろう? それだって、仕事やファンクラブのまとめで切り上げて戻って来るのだから、役に立っていないはずだ。」
コロニー人達が重力対策の話をしているのを、横で地球人のハイネが黙って聞いていた。彼は午前中に着ていたスーツではなく、カジュアルな服装をしていたので、午後はドーマー仲間と休日を楽しんでいたに違いない。或いは夕食後に何処かで飲んでいたか?
ケンウッド達は表彰式の前に軽く食べていたが、空腹を感じた。バスルームのパーシバルに声を掛けてキッチンを覗くと、ビスケットとチョコレートがあったので、少し頂くことにした。
ケンウッドはハイネにも勧めたが、老ドーマーはお腹は空いていないと断った。
「アパートに戻っていたのかい、局長?」
「いいえ、ワッツやペルラ達と一緒に居ました。」
飲んでいたとは言わない。飲んでいたに違いないのだが、ドーマーは飲酒しないことが建前なので、ハイネは自身のアパート以外の場所では絶対に飲酒を認めないのだ。
「お楽しみの最中に呼び出されて申し訳なかったね。」
「お開きにする頃でしたから、問題ありませんよ。」
呼び出される直前に何処に居たのか知らないが、ハイネは娘からの救援要請を受けて飛んで来たのだ。友人の一大事と聞いて急いだのかも知れないが。
パーシバルがバスルームから出て来た。化粧を落としてさっぱりとした顔だ。
「今夜はキーラにキスしてもらえたし、ハイネに御姫様抱っこで運んでもらえたし、ついでに言えば、衣装も剥ぎ取ってもらえて、最高の気分だ。」
他人事みたいに冗談めかして言うので、ケンウッドはコルセットを手にした。
「またこれで締め上げてやろうか?」
「それは勘弁してくれ。」
パーシバルがもう大丈夫だと言うので、ヤマザキは明朝の診察を忘れるなと念を押してハイネと共に部屋を出て行った。
ケンウッドはパーシバルが大人しくベッドに入る迄見守った。
「キーラに心肺蘇生をしてもらったそうだな?」
「うん・・・役得だけど、記憶にない・・・残念ながら。」
パーシバルは苦笑して、ふと真顔になった。
「彼女が救援を電話で呼ぶのが聞こえたのだが、最初は誰と話しているのか、わからなかった。実は、彼女は『お父様』って言ってたんだ。そうしたら、来たのがハイネだったので驚いた。」
ケンウッドはその話題をスルーした。ふーんと軽く受け流したが、パーシバルはこだわった。
「彼女はどうして医療区じゃなくハイネに電話したんだろ?」
「それは、ハイネが近くに居るのを知っていたからだろう。アパートの方が医療区より近いからね。」
ハイネとキーラの秘密をパーシバルになら話しても良いだろうと思えたが、やはりケンウッドは黙っていた。もう夜更けだし、パーシバルを早く眠らせたかった。
「私は部屋に戻るが、もし気分が悪くなったらいつでも電話してくれ。」
「わかった。」
「明日は定刻に迎えに来る。必ず医療区へ行けよ。」
「わかった。」
「リプリー長官にも君自身で報告しておいた方が良いと思う。黙っていたら、ケンタロウやキーラに迷惑がかかるぞ。」
「わかった。」
「ちゃんと水分を摂れよ。」
「わかった。」
「おやすみ。」
「わかった・・・おやすみ。」
ケンウッドは静かにドアを閉じて自身の部屋へ向かった。