2017年9月8日金曜日

後継者 3 - 6

 翌朝、ケンウッドがヘンリー・パーシバルを医療区に連れて行くつもりで友人のアパートのドアチャイムを鳴らすと、パーシバルはすぐに開けてくれた。見ると既に身支度を済ませて何時でも出かけられる用意をしていた。

「なんだ、ちゃんと医者に懸かる準備をしていたのか。」

 ぐずるだろうと思っていたので、ケンウッドは肩透かしをくらった気分だ。
 するとパーシバルが苦笑しながら言い訳した。

「朝の5時にハイネが電話してきやがって、『生きてますか?』だとさ。その10分後にキーラからも『気分は大丈夫?』ってかかってくるし、6時にはケンタロウから朝飯抜きで来いと言ってくるし・・・」
「みんなで君を心配しているのさ。」
「有り難いけど、もう少し寝かせてくれないかなぁ? 端末のメッセボックスもいっぱいだぜ。僕がファンクラブを作ったドーマー達からだ。ポールなんか3回もメッセをくれている。お大事に、とか、無理しないで下さい、とか、医者に行って下さい、とか・・・誰が連中に僕の体のことを漏らしたんだろう?」
「さあね・・・」

と言ったが、ケンウッドは犯人の目星がついていた。ドーマーを動かせるのはドーマーのリーダーだ。 ハイネはパーシバルを心から案じているのだ。
 朝食抜きなので空腹でイライラすると言うパーシバルを医療区に連れて行き、ヤマザキに引き渡した。それからやっと遅い朝食を摂りに中央研究所の食堂へ行くと、リプリー長官もそこに居た。昨日の春分祭の後片付けで寝るのが遅れて、今になって朝ご飯なのだ。
 ケンウッドはパーシバルの健康問題を報告した。パーシバルには自身で言えと言ったのだが、出会ってしまったからにはここで長官に何も言わないのでは後が面倒だ。
 リプリー長官は美男子の追っかけをしているパーシバルを余り好ましく思っていなかったが、それでもドーマー達から信頼されている数少ない執政官であることは評価していた。だからパーシバルに重力障害の疑いありと聞いて、眉をひそめた。

「重力障害で呼吸が停止するなんて、聞いたことがないが?」
「実は私もなんです。走査検査では、目立った異常は発見出来なかったのですが、念のために今日精密検査を受けることになっています。」
「そうか・・・それなら結果待ちと言うことだな。秘密にする必要はないと思うが、彼の今後のこともあるから、わざわざ公表することはないだろう。」

 リプリーは1分ほど黙してから、呟いた。

「本当になんでもなければ良いが・・・」

 ドーム内で病人が発生すれば、それがドーマーであれコロニー人であれ、ドーム長官の管理姿勢が良くなかった、と言うことになる。ことなかれ主義のリプリーには、例え誰かが転んで怪我をしても重大問題に思えるのだ。ましてや、重力障害や呼吸停止など・・・
 長官は何かわかったらすぐに連絡してくれと言って、食事を終えた。
 ケンウッドも食事を早々に終えて研究室へ向かった。副長官室の隣に引っ越した研究室では、まだ昨日の祭りの余韻が残っており、ケンウッド博士の優勝を祝う助手達の飾り付けが妙に場違いに思えた。
 ケンウッドは助手達に気を遣って、笑顔で感謝して見せた。