ケンウッドの言葉にキーラ・セドウィックはちょっと驚いた。
「あら、そんなことまでご存じですの?」
「15代目に教えてもらったのです。16代目は過去を何も語りません。」
「そうですか・・・」
彼女はちょっと寂しげに見えた。
「私は母から遺伝子工学を学べと言われましたが、反発して警察官になりましたの。勉強はしましたのよ。ただ学者になりたくなかっただけ。
警察に入った次の年に『死体クローン事件』が起きました。宇宙連邦内で大きく報道されましたから、ご存じですわよね?」
「ええ、私は学生でしたから、ニュースで知っただけですが。」
「私も自身には無関係だと思っておりましたわ。それが上役について地球に行くことになって、びっくりしました。しかも犯人が勤務していたのが、ここアメリカ・ドームでしたの。」
「地球へ行くことが決まって、お母様は何と?」
「母に言う暇はありませんでしたわ。上役から『これから地球へ行くぞ、ついて来い!』とそれだけ・・・」
キーラは、誰かとそっくりに、くっくっと笑った。
「シャトルに乗って、アッと言う間にドーム空港に到着して、身体検査の後で消毒されて、面会室まで駆け足で・・・。」
面会室? ケンウッドは意外な言葉を聞いた思いがした。ドームの外からの訪問者は、通常特別許可がなければ面会室で執政官やドーマーに会う。送迎フロアに一番近い空間で、長い回廊の端にある。20代だったローガン・ハイネは回廊の真ん中まで1人で行って連れ戻された。それから20数年たって、面会室まで行くことが許されたのか。
「彼と面会したのですね?」
「面会したのは上役ですわ。私は面会室の入り口から入ってすぐの所で座って上役と彼の情報交換を黙って見ていました。紹介はしてもらえましたが、彼から声を掛けてくることはありませんでした。」
「彼は貴女に気が付かなかったのですか?」
すると、キーラは思い出し笑いなのか、ふふふと小さく笑った。
「後に一緒に仕事をすることになった時に、私は初対面の時のことを覚えていますか、と彼に尋ねましたの。彼は覚えていると答えました。
マーサ・セドウィックと同じ姓で同じ顔をした、しかも別れた時の彼女と同じ年齢の女性がいるので不思議だったと、彼は言いましたのよ。」
ケンウッドはつくづくドーマーに家族と言うものを教えずに育てる教育法は誤りではないのかと思った。ローガン・ハイネ・ドーマーは別れた女性が彼の子供を産んだかも知れないと疑いもしなかったのだ。元カノそっくりの女がいる、ただそれだけの認識だった。
「私の存在に気が付いてくれない、と言うことが、私に火を点けましたの。」
とキーラが面白そうに言った。
「私は遺伝子学者ではなく、産科医の資格を取って、地球勤務の職員に応募しました。毎日試験管と電子顕微鏡を覗く生活をするより、生きている人々を相手にしたかったのです。母はもう何も言いませんでした。
私がアメリカ・ドームに派遣されると聞いた時、彼女は黙って送り出してくれました。
私は出産管理区で勤務を始め、白い髪のドーマーを食堂で見つけると声を掛けてみました。彼は全く私とマーサを結びつけて考えなかったのです。ですから、私は却って安心して彼と話しが出来ました。彼は当時まだ平の遺伝子管理局の内務捜査官だったのですけど、ドーマー達から既に将来のリーダーとして敬われていました。彼の日頃の態度、立ち居振る舞い、話し方、全てがリーダーとなるべく仕込まれたものだと、私は母から聞いていましたけど、実際の彼はそれにふさわしい人でした。」
「ええ、そうですね。」
ケンウッドは友人が褒められて嬉しく思った。キーラが悪戯っぽく笑って言った。
「私は彼の真似をしてみました。すると、出産管理区で何故か私はリーダー的立場になってしまったのですわ。いつの間にか周囲から頼られて、信用されて・・・。」
それでケンウッドは思い切って言った。
「貴女は本当に彼に似ていますよ。お顔も話し方も立ち居振る舞いも。」
「それが有り難いのか、迷惑なのか・・・」
キーラは複雑な顔をした。
「彼は迷惑がっていますわ。私、知ってます。でも私は引き下がりませんから、半ば強引に彼に私達の関係を打ち明け、友人として接しています。私が勝手に仲良しだと思っているのでしょうけど。」
ケンウッドは優しく彼女を励ました。
「彼は貴女を嫌ってなどいませんよ。口では迷惑だと言っていますが、要するに、ドーマー達は子供を持った経験がある仲間が1人もいないので、貴女にどの様に接して良いのか、彼はわからないのです。その一方で彼は貴女を守らねばならないことは知っています。
サンテシマに貴女が彼に似ていることを気づかれないよう、注意を払っていましたからね。」
「まぁっ! そうでしたの?」
キーラはびっくりして目を見張った。
ケンウッドは話を元に戻した。
「ですから、ヘンリー・パーシバルは、貴女がローガン・ハイネと似ていることにも関心があるのです。彼は局長と仲良しですからね。ハイネの良いところを貴女が持っていることが嬉しいのです。」
「あら、そんなことまでご存じですの?」
「15代目に教えてもらったのです。16代目は過去を何も語りません。」
「そうですか・・・」
彼女はちょっと寂しげに見えた。
「私は母から遺伝子工学を学べと言われましたが、反発して警察官になりましたの。勉強はしましたのよ。ただ学者になりたくなかっただけ。
警察に入った次の年に『死体クローン事件』が起きました。宇宙連邦内で大きく報道されましたから、ご存じですわよね?」
「ええ、私は学生でしたから、ニュースで知っただけですが。」
「私も自身には無関係だと思っておりましたわ。それが上役について地球に行くことになって、びっくりしました。しかも犯人が勤務していたのが、ここアメリカ・ドームでしたの。」
「地球へ行くことが決まって、お母様は何と?」
「母に言う暇はありませんでしたわ。上役から『これから地球へ行くぞ、ついて来い!』とそれだけ・・・」
キーラは、誰かとそっくりに、くっくっと笑った。
「シャトルに乗って、アッと言う間にドーム空港に到着して、身体検査の後で消毒されて、面会室まで駆け足で・・・。」
面会室? ケンウッドは意外な言葉を聞いた思いがした。ドームの外からの訪問者は、通常特別許可がなければ面会室で執政官やドーマーに会う。送迎フロアに一番近い空間で、長い回廊の端にある。20代だったローガン・ハイネは回廊の真ん中まで1人で行って連れ戻された。それから20数年たって、面会室まで行くことが許されたのか。
「彼と面会したのですね?」
「面会したのは上役ですわ。私は面会室の入り口から入ってすぐの所で座って上役と彼の情報交換を黙って見ていました。紹介はしてもらえましたが、彼から声を掛けてくることはありませんでした。」
「彼は貴女に気が付かなかったのですか?」
すると、キーラは思い出し笑いなのか、ふふふと小さく笑った。
「後に一緒に仕事をすることになった時に、私は初対面の時のことを覚えていますか、と彼に尋ねましたの。彼は覚えていると答えました。
マーサ・セドウィックと同じ姓で同じ顔をした、しかも別れた時の彼女と同じ年齢の女性がいるので不思議だったと、彼は言いましたのよ。」
ケンウッドはつくづくドーマーに家族と言うものを教えずに育てる教育法は誤りではないのかと思った。ローガン・ハイネ・ドーマーは別れた女性が彼の子供を産んだかも知れないと疑いもしなかったのだ。元カノそっくりの女がいる、ただそれだけの認識だった。
「私の存在に気が付いてくれない、と言うことが、私に火を点けましたの。」
とキーラが面白そうに言った。
「私は遺伝子学者ではなく、産科医の資格を取って、地球勤務の職員に応募しました。毎日試験管と電子顕微鏡を覗く生活をするより、生きている人々を相手にしたかったのです。母はもう何も言いませんでした。
私がアメリカ・ドームに派遣されると聞いた時、彼女は黙って送り出してくれました。
私は出産管理区で勤務を始め、白い髪のドーマーを食堂で見つけると声を掛けてみました。彼は全く私とマーサを結びつけて考えなかったのです。ですから、私は却って安心して彼と話しが出来ました。彼は当時まだ平の遺伝子管理局の内務捜査官だったのですけど、ドーマー達から既に将来のリーダーとして敬われていました。彼の日頃の態度、立ち居振る舞い、話し方、全てがリーダーとなるべく仕込まれたものだと、私は母から聞いていましたけど、実際の彼はそれにふさわしい人でした。」
「ええ、そうですね。」
ケンウッドは友人が褒められて嬉しく思った。キーラが悪戯っぽく笑って言った。
「私は彼の真似をしてみました。すると、出産管理区で何故か私はリーダー的立場になってしまったのですわ。いつの間にか周囲から頼られて、信用されて・・・。」
それでケンウッドは思い切って言った。
「貴女は本当に彼に似ていますよ。お顔も話し方も立ち居振る舞いも。」
「それが有り難いのか、迷惑なのか・・・」
キーラは複雑な顔をした。
「彼は迷惑がっていますわ。私、知ってます。でも私は引き下がりませんから、半ば強引に彼に私達の関係を打ち明け、友人として接しています。私が勝手に仲良しだと思っているのでしょうけど。」
ケンウッドは優しく彼女を励ました。
「彼は貴女を嫌ってなどいませんよ。口では迷惑だと言っていますが、要するに、ドーマー達は子供を持った経験がある仲間が1人もいないので、貴女にどの様に接して良いのか、彼はわからないのです。その一方で彼は貴女を守らねばならないことは知っています。
サンテシマに貴女が彼に似ていることを気づかれないよう、注意を払っていましたからね。」
「まぁっ! そうでしたの?」
キーラはびっくりして目を見張った。
ケンウッドは話を元に戻した。
「ですから、ヘンリー・パーシバルは、貴女がローガン・ハイネと似ていることにも関心があるのです。彼は局長と仲良しですからね。ハイネの良いところを貴女が持っていることが嬉しいのです。」