2019年4月28日日曜日

訪問者 2 1 - 10

「局長、私達、貴方に聞いて頂きたいことがあるんです。」

 シュラミスが言い出した。ショシャナとローガンはちょっとモジモジしている。父親のパーシバルが子供達にはっぱをかけた。

「そうさ、この際だから、ここで言っちゃえっ!」

 そして彼はさっさとケンウッドとヤマザキが居るテーブルの椅子に座った。ヤマザキが笑った。

「爺さんが願いを叶えてくれって訳でもなかろうに。」
「子供達は話を聞いてもらえれば満足なんだよ。それから、爺さんは止めろっていつも言ってるだろう、ケンタロウ!」
「彼は事実爺さんなんだから、爺さんと呼んで何が悪い。」
「2人共、止さないか。観光客に聞こえるぞ。」

 3人は通路の方を振り返った。昼時なので屋台の前に人が立ち始めた。アイダとランバートが肉やチーズを焼き、キーラが具材をパンに挟み込んでいる。給仕はドーマー達の役目だ。観光客はドーマー目当てなのだから、それで良い。客が去った後のテーブルの片付けはロボットが行う。
 ケンウッドは思わず呟いた。

「区長と副区長がここにいると言うことは、業務は若い医師達が引き受けたんだな。」
「ボス2人が籤引きで当たりを引いちまったんだとさ。」

と事情通のヤマザキ。医療区長の彼は男性なので女装しなければならず、春分祭の業務は毎年休む。パーシバルがハイジと荻野吟子を見比べた。当然ながら笑っていた。
 シュラミス・セドウィック・パーシバルは妹ショシャナを祖父の前に押し出した。

「最初にこの子の話を聞いてあげて下さい。」

 そして彼女はローガンの腕を掴んで空いているテーブルへ退いた。残されたショシャナは赤くなって立っていた。ハイネが向かいの椅子を指した。

「座りなさい、ショシャナ。」

 祖父が彼女を姉と間違えなかったので、ショシャナは微笑んだ。彼女は素直に腰を下ろすと彼に言った。

「私、ミュージシャンになりたいんです。ピアノが弾けるの。でも母は反対するんです。世の中にはもっと才能のある演奏者が大勢いて、私がプロとしてやって行くのは無理だって。局長はギターの名手だって聞きました。どうか母を説得して頂けませんか?」
「反対しているのはキーラなのか? ヘンリーは何と言っている?」
「父は私の好きな道を進むと良いって・・・音楽家として成功するかしないかは、その時になってみないとわからないって。」

 ハイネは子供達の母親に視線を向けた。ドーマーは養育棟で育てられる間に職業への適性を見極められて専門教育を受ける。ドームの中の職業は職種が限られていて、子供達に職業選択の自由はあまりない。ハイネ自身生まれる前から職業と地位が決められてしまっていた。キーラ・セドウィックはドーマーに採用する子供を選択する仕事をしていた。さらに言えば、執政官は子供を親に育てさせるか養子に出して女の子と取り替えるかを選択するのだ。彼女は子供の将来を決める仕事をしてきたのだ。
 しかし・・・
 ハイネは孫娘に言った。

「君の母親は、その母親から遺伝子学者になるよう教育されたが、反発して警察官になった。知っているかね?」

 ショシャナが目を見張った。

「お母さんは警察官だったの? 初めて聞いたわっ!」
「彼女は警察官として地球へ来て、私と出会った。そして気が変わって産科医の資格を取って再び地球へ来た。彼女は好きな道を選んで来た。」

 ショシャナの目が輝いた。彼女は立ち上がるとハイネの前に屈み、祖父の頬にキスをした。

「有難う、局長。私、頑張ってピアニストになります。」

 そしてもう一度彼にキスをした。

「愛してるわ、お祖父ちゃん。」