2019年4月18日木曜日

誘拐 2 4 - 4

 事態の進展が明らかになったのは、ケンウッドが気が乗らない昼食を時間をかけて食べ終えた頃だった。彼がコーヒーでようやく一息つく気分になったところに、向かいの席でデザートのバナナケーキに取り組んでいたハイネ局長の端末にリュック・ニュカネンが直通電話をかけて来た。今度は画像電話だ。ハイネは食器や調理器具が粉砕された厨房らしき場所をニュカネンの顔の背景に認めた。

「報告します。」

とニュカネンが普段と変わらぬ声で言った。

「FOKと思われる男を2名、拘束しました。ラムゼイの部下と名乗る男も1名確保しました。それから、ジェネシスの女性、シェイを無事保護。当方は、ダリル・セイヤーズ・ドーマーが片脚を負傷、只今救護班の処置が終わり、命に別状ありません。」
「セイヤーズが脚を負傷しただって?」

 ケンウッドが耳聡く聞きつけた。ハイネは長官を無視した。

「一般市民を巻き込んだりしなかったか?」
「その点は大丈夫です。住民がいない廃村で、住んでいたのはジェネシスの女性とラムゼイの部下の2人だけでした。取り調べはまだですが、セイヤーズがFOKのメンバーと交わした会話では、敵も彼同様にジェネシスを確保するつもりでやって来たそうです。偶然鉢合わせて、争いになったと言っています。」
「セイヤーズは負傷したにも関わらず、FOKを捕まえ、ジェネシスを保護したのだね?」

 またケンウッドは口出ししてしまった。ハイネが何か言う前に、ニュカネンが長官の質問に答えた。

「それが、FOKを捕まえたのも、女性を保護したのも、静音ヘリのパイロット、マイケル・ゴールドスミス・ドーマーの手柄です。彼の機転でセイヤーズは助かったのです。」

 ほう、とハイネが呟いた。遺伝子管理局でも保安課でもない、航空班のパイロットがどの様に闘ったのか、興味が湧いた。

「事態は収束したのだな、ニュカネン君?」

 元ドーマーには敬称としての「ドーマー」を使えない。ハイネはまだ部下ではあるが、ドームの外の人間となったリュック・ニュカネンに外の世界の敬称を使った。ニュカネンは頬を赤く染めた。

「仰せの通り、収束しました。FOKとラムゼイの部下は警察に引き渡します。セイヤーズとジェネシスの女性はゴールドスミスのヘリで直ちにドームへ送ります。」

 うむ、とハイネは頷いて見せた。

「君もご苦労だった。ありがとう。」