2019年4月11日木曜日

誘拐 2 3 - 6

「ポール・レイン・ドーマーのことがあったから、こう言う話題を話しているのだが・・・」

とケンウッドは料理を選びながら言った。その日のランチは5種類の鶏肉料理がメインで、彼はトマト煮込みを、ハイネはクリーム煮込みを選んだ。これはいつものパターンだ。

「ドーマーは実の親が誰か知った時、会いたいと思うのかね? その死を知ったら悲しいだろうか?」
「他のドーマーがどんな気持ちを抱くのか、私は知りません。」

とクールにハイネが応じた。

「私は実の親のことなど全く知りませんし、興味もありません。私自身の年齢を考えれば、私の親は当然ながら、兄弟もその子供も歳を取って旅立った後ではないでしょうか。」

 そして彼はケンウッドに逆に尋ねた。

「外へ出た元ドーマーが親を訪ねたと言う報告はありましたか? レイン以外に。」
「あー、否・・・」

 ケンウッドは自分が愚かな質問をしている気分になってきた。

「レインが父親の逝去に関して全く無感動に振る舞うので、気になってね。委員会は君たちドーマーの情緒教育を間違えたのではないか、と疑問を抱いているのだ。」

 彼等はそれぞれ副菜を選び、テーブルに向かった。

「人間は、地球人でもコロニー人でも親を懐かしむものなのだよ。親から虐待された子供でも親を慕うことがあるし、生まれてすぐに親と生き別れた子供は親を知りたいと思い、会いたいと希望する・・・」

 ケンウッドは、ハイネが椅子に腰を下ろしながら彼を珍しいものを見る様な目付きで見返したことに気が付いた。
 ハイネは椅子の上に落ち着くと、クリームスープを一口味わってから、ケンウッドに言った。

「私は親を懐かしいと思ったことはありませんが、養育係のクリステル・ヴィダンにはもう一度会いたいと思い続けていますよ。彼女の胸に抱かれていた幼い日々が懐かしいです。」

 ドーマーにとっては、養育係が親だ。ケンウッドはその事実を思い出し、自分が本当に愚かな悩みを抱えていた気分になった。ドーマーも普通の人間なのだ。

「それでは、レインも養育係には会いたいと思っているのか・・・」
「普通に考えれば、その様でしょうな。」

 ハイネはスプーンに大きな鶏肉の塊を載せ、数秒間迷ってから、口を大きく開けて一口で食べた。それをゆっくり噛み締め、味わってから、ポツンと言った。

「何故ドーマーは養育係との再会を許されないのでしょう。」