2019年4月28日日曜日

訪問者 2 1 - 8

「ニコ、こっち! こっち!」

 誰かがケンウッドをファーストネームで呼んだ。呼ばれるまま、ケンウッドはホットサンドウィッチの屋台の裏側へ入った。そこには出産管理区のアイダ・サヤカとシンディ・ランバートが珍しく2人揃ってエプロン姿で店を仕切っていた。部下の男性ドーマー4名もエプロンを着けてパンを焼き、表面をトロトロに焼き溶かしたチーズと薄切り肉の焼いたのをトマトとピクルスと共に挟んで販売していた。テントの裏に、思いがけない顔を見つけてケンウッドは立ち竦んだ。

「キーラ! それにローガン、ショシャナ、シュラミス!」
「ニコ小父さん!」

 抱きついて来たのはショシャナだろうか、それともシュラミス? ケンウッドは未だに双子の区別がつかない。否、彼等は三つ子なのだが、女の子2人が一卵性双生児なのに対して男の子のローガンだけは違う卵子から生まれた。
 キーラ・セドウィックはサングラスをかけて顔を隠していた。勿論マスコミ対策だ。アイダがニコニコしながらそばに来た。

「驚いたでしょう? 貴方をびっくりさせようと内緒にしていたのよ。」
「狡いなぁ・・・出産管理区は知っていたのかい?」

 ドーマー達が笑いながら頷いた。彼等はキーラが現役時代に取り上げた子供達で、成人する頃にはキーラは既に退職して地球から去っていたのだが、しっかり「ママ」を覚えていた。双子の一人はランバートのそばにいて、どうやら母親の弟子が気に入ったみたいだ。男の子のローガンはちょっと大人しい。コロニーで会った時はやんちゃな少年だったが落ち着いて来たのか、それともドーマー達に囲まれて緊張しているのか。
 ケンウッドは一家のメンバーが一人足りないことに気が付いた。

「ヘンリーは来ていないのかい?」

すると娘の一人が答えた。

「お父さんはケンタロウと局長を探しに行ったの。」
「そうなのか・・・ええっと、君は・・・」
「シュリーよ。」

 つまり、シュラミスだ。ケンウッドはショシャナをちらりと見て、彼女達の髪型の微妙な違いを頭に刻み込んだ。

「君達は地球は初めてだったね。ケンタロウはともかく、お祖父さんには初対面か。」
「そうなの。だから、ローガンが緊張しまくり。」
「男として合格点をもらえるか不安なのね。」

 シュラミスとショシャナがからかい、ローガンは頬を赤くして姉妹を睨んだ。
 ケンウッドの前にアイダが熱々のホットサンドウィッチとコーヒーを運んできた。

「お昼になったらこの店も戦争状態になりますから、今のうちに召し上がって。」
「有り難う。」

 時計を見ると11時25分だった。そろそろハイネが本部を出てインタビューを受ける頃合いだ。ケンウッドは椅子に腰を下ろした。パーシバル・セドウィック一家が彼を取り囲んで座った。子供達は成人する折に二親の姓の好きな方を選べる。未成年の内はセドウィック・パーシバルと姓が長い。
 ケンウッドはサンドウィッチにかぶりついた。熱いチーズが美味しい。

「出産管理区はピッツァを伝統的に販売していたのじゃなかったかね?」
「それが某テレビ局にバレたので、今年は趣向を変えたんですって。」
「ローガン・ハイネが必ず現れる店ってマークされたのよ。」
「だから、今年のピッツァの店は図書館と被服班が競い合っているわ。お客は局長が来ることを期待してピッツァの店に集まるから。」

 女性達が賑やかに解説してくれた。そこへいきなりヘンリー・パーシバルが帽子を目深に被った長身の男の手を引いて駆け込んで来た。

「サヤカ、パラソル席は空いてるかい?」
「タープで隠れたテーブルがあるわよ。」
 
 キーラ・セドウィックは慣れたもので、斜めに張られたタープの端を持ち上げ、帽子の男を呼んだ。

「局長、さっさと隠れて!」